ヱシ/バク獏
ぼくはおまえがいなくてもこまらないけれど
おまえはぼくがいないとこまるって
嘘でもそう云ってくれたら、何もかも全部あげたっていいのに。
「大事な宿主サマ」「一人にしねえよ」「一緒にいてやるよ」
囁くお前の唇の、その三日月は、ボクの一番欲しい嘘を決して口にしない。
「愛してるぜぇ?」
勘違いしないでよ。
スキとかアイシテルとかそんな気持ち悪いものは欲しくないんだ。
それとも、分かってるくせに寄越さないでボクのことを苦しめて、
焦がれて苦しくて堪らなくさせて、執着を強めようとしているの?
「そんな顔すんなよ、オレ様がいるじゃねえか」
そんな顔ってどんな顔。
ボクは自分の顔は見られないから、代わりにお前が鏡になって、ボクの顔をしてみてよ。
一体どのくらい、凍りついた無表情をしてるのか。教えてみてよ。
凍る瞳 唇 心
凍えてしまいそうだ
恋じゃないんだ、愛でもないんだ。
ボクが欲しいのはたったひとつの嘘。
「おまえがいないとこまる」って、
ボクが必要だって
心が壊死するその前に、一言だけでいい、そう云ってよ。