フシ/バク獏

安心しろよ。絶対に云ってやンねえからよ。
てめえがいないと駄目だだとか、そんな陳腐な口説き文句

何が本当でどれが嘘か、そんなことは簡単だ。
口に出したら全てが嘘だ。

「嘘つき」「信じないよ」「お前なんか嫌いだ」

吐き捨てるお綺麗な顔。満月みたいな目が温度を下げる。

「聞きたくない、お前の云う言葉なんか」

そうやって耳を塞いでいろ。
見たくないもの聞きたくないもの知りたくないものから自己を遠ざけて、
臆病者の姿勢で蹲って震えてな。てめえにはそれが良く似合う。
塞ぎやすいように、オレ様がてめえに不快をくれてやるよ。

「いなくなってよ、苦しいのはもう嫌だ」

無表情の裏側、乾いた心に亀裂が走る。
それでも耳に流れ込む嘘が欲しいって、矛盾してるぜ?宿主サマ。
覆った手の隙間から覗く青が、氷のように色を無くすのが見える。

凍る瞳 唇 心
爛れて腐るより、そっちの方がましだろう。

吐き出せば音に変わる。言葉は嘘へと変化する。
真実は腹の中にしかない。そうしてやがて、誰にも知られずに腐り行く。

「てめえがいないと駄目だ」なんざ、

身体じゃなく腕じゃなく、その魂ごと欲しいだなんて
例えこの二枚舌が腐り落ちたって、てめえに云うのだけは御免だ。