【同人再録】たぶん上々環状線。-2【R18】
2.
早足で道を歩いていた時のことは、あまり鮮明に覚えていない。
ただ恥ずかしくて仕方が無かったことは記憶している。無言になったバクラに手を引かれ駅前から裏通りへ、まるで引っ立てられるようにして歩いている間、ずっと自分の爪先だけを見ていた。
とにかく身体中が熱くてぼんやりとして。風邪を引いた錯覚を受けるおぼつかなさをバクラの手で支えられていた。
満員電車に乗るより前から、獏良の頭はふわふわとしていた。
バクラと出かけることは週末の定番になっていたし、別段心躍るというわけでもない。楽しいけれど、彼がいる生活それ自体に慣れて日常化しつつあった。浮足立つことなんかないのに、今日は妙に足元がふわふわと、雲の上を歩くような落ち着かなさを感じていた。
そんなタイミングで、なしくずしに触れ合うことになって。
足元の浮遊感が膨れ上がった。冷静な思考が出来なくなった。
云われるままに手を動かして、バクラの云う通りにこんなことをするなんておかしいと分かっていたのに止められなかった。そのうち止めるという選択肢自体が消えて失せて、そうして残ったのは火照る身体。
大体、少し足を絡ませ合うくらいならまだしも尻に悪趣味な悪戯をしかけるバクラの方が悪いのだ。布越しに入口を探られて平然としていられる身体でないことは、バクラが一番よく知っているだろう。心の部屋でも現実でも、そこを可愛がられた回数は数えきれない。とんだ淫乱だと彼は嫌なことを云うが、そうなるように躾けたのは奴である。
じれったい愛撫に耐え、羞恥と醜態を天秤にかけて、結局は我慢できずに正直に訴えた。
途端バクラは黙りがちになって、そうして獏良の手を引っ掴むや否や、降りたこともない駅のホームに飛び出した。買い物袋をぶら下げた手に手を引かれ、ねえどこに行くのと問うても答えない。
足取りが大通りから反れた時点で何となく察しはついた。夜に近づくにつれ二人組の影が増える薄暗いホテル街に、獏良は連れて行かれたのだった。
獏良はいわゆるラブホテルという建物に足を踏み入れたことがない。当たり前だ、恋すらしたことが無いのだからお世話になる理由がない。バクラが戻ってきてからはたまに話題に上る――ご近所の手前、声を抑える獏良に対し、じゃあホテル行きゃあいいんじゃねえのとバクラが云ったのだ――ことがあるが、実際に行くことはなかった。不特定多数の人間が交わる場所でそういうことをするのは、何だか不衛生だと感じていたからだ。
そんな不快感すら押しのける勢いで連れて来られ、獏良は今、ホテルのエレベーターの中にいる。
先程からバクラは何も云わない。フロントで適当にパネルを叩いた時も、選んですらいなかった。適当に目についた四〇三号室に向かう中、妙な気まずさと依然変わらぬ身体の熱で、倒れそうな気分だ。
それでもバクラは、掴んだ獏良の手を離さなかった。伝わる温度が自分と同じくらい熱かったことに、不覚ながらも安心する。ああこいつも切羽詰ってるんだと思うと、奇妙な疼きが胸を締めて苦しい。こんな甘やかな空気は気持ち悪いのに、鼓動はちっとも収まらなかった。
無音で開くエレベーターから降りて、ランプが点灯した目的の部屋に辿り着く。
扉を開き、踏みこんで。ばたんと閉じる音を聞きながら、肩に衝撃。
強引に振り向かされた先で、唇を塞がれた。
「んぅっ……!?」
どさどさとビニール袋が床に墜落する音が続く。バクラが放り出したのだと理解する間に追い詰められ、あれよという間に壁に背中をついていた。
厚めの唇が口唇を覆い、開いた歯列に挨拶もなく舌が滑り込む。奥に縮こまっていた獏良のそれと出会い触れた瞬間に、とろけそうな電流を感じた。電車の中では決してできなかった唇の接触に、身体中が悦んでいる。
「ん、ッ、んん……!」
気づけば獏良も必死になって、舌を吸っていた。
切羽詰った呼吸を交え、夢中で唇を啄みあう。両腕をバクラの首に回し、バクラの手は獏良の腰に。抱き合って交わす唇はいつもよりずっと熱かった。普段触れても抱き合うことなどほとんどない。したとしても無意識に縋るか、身体を支える為にする行為だ。今は望んでそうしている。触れる面積が一ミリでも多くなるように、胸を腰を腕を足を、相手に押し付ける。
薄ら開いた目の先に、バクラの瞳。欲情すると赤味が増す紫の瞳は燃えるような色をしていた。
焼かれる気分で視線を合わせる。しなるように、目が笑った。
「ッ、随分と、積極的じゃねえの、宿主サマよォ」
切れ切れの声を聞いて、どっちがと云ってやりたくなる。そんな盛った眼つきをしておきながら。
答える代わりに唇に噛みついた。滑らかな舌の先と先で擽りあい、ぬるい二酸化炭素を交換する。吐き出した息に人間をいやらしくさせる成分が含まれていたっておかしくない、互いの興奮が興奮を誘う。忙しなく啄みあう唇の間で、小さな言葉をいくつか交わした。
「我慢できねえって、相当だったみてえだな」
上ずった声でバクラが云う。負けじと掠れた声で、こちらも応戦。だがキスのイニシアチブを奪われているのでどうにもうまくいかない。
「お前が、ぁ、悪趣味ないたずら、するっ、から、」
「最初に仕掛けてきたのはソッチだぜ?」
「おとなしく、っ、触られてなかったのは、お前の方」
「は、途中から手すら動かさなくなった癖によ」
言葉を舌で遮られる分、獏良の方が分が悪い。そのうち言い返すことすら億劫になってきた。
足が痺れて、立っているのがつらくなる。一日中歩き回っていた上に電車での痴漢ごっこだ、自他ともに認めるもやしっ子の弱い足腰に限界が来るのは明らかだった。それだけではなく、キスそれ自体に力を奪われているのもあるのだけれど――しかし、ベッドまで移動するだけの余裕がもうない。
がくんと折れた膝を追って、バクラの方も姿勢を崩した。へたり込むままに床へと投げ出される身体――しかしそれでもキスは止まない。靴すら脱いでいない部屋の入口で交わるだなんて頭が悪すぎる。その頭の悪さが、今は心地よかった。
「バクラ、っ」
苦しくて呼ぶと、無言で髪をぐしゃりと掻き回された。宥められたようでおかしな気分だ。
いつもより余裕のないバクラの手が、獏良の着るカーキ色のモッズコートを強引に引き剥がす。全て脱がす前にシャツの釦を外しに掛かる指先。どこもかしこも、切羽詰っている。
バクラはまだ分厚いダウンジャケットを着たままだった。動き辛そうなので脱がしてやろうと親切心で手を伸ばす。が、その手はぱしんと強く掴まれた挙句に床に縫い付けられてしまう。余計なことはしなくていいと云われた気がして、その通りにすることにした。
(どうぶつみたい)
半端に剥がされたコートとシャツとが肩にわだかまって重たい。剥き出しになる首筋に喰らいつく犬歯の感触に悶えながら、獏良は思った。
まるでけものだ。戻ってきてからこっち、バクラが仕掛けるセックスは記憶している心の部屋のそれより随分と荒っぽくなった。弄う言葉や意地の悪い動きは相変わらずだが、動きが違う。激しく求められているように感じるのが錯覚なのか真実なのか、それすら獏良には分からないけれど、悪い気はしない。
分かりやすいようで、確実ではないあやふやな執着。掴まれる手首の痛みが心地いい。
ちくり、どころではなく鋭い痛みと共に刻まれる首筋の鬱血を、嬉しいと思った。
「いたいよ、」
口先だけの咎める声も、相手には届いていない。
荒い息が肌を滑ってゆく。床へ重ねて縫われた手指を、何となく握ってみた。ぴくんと反応した後に、無言で緩く握り返される。
なんという面映ゆさだろう。気色悪いことすんなよと云われると思っていたのに。
「お前、きょう、変だよね」
「てめえもな」
短く交わす言葉。そうしてまた、互いに口で口を塞ぐ。
快楽の手段としてしか重ねない唇だけれど、今しているキスはいつもと違う味がした。胸やけがするほど甘くて苦しい。気持ちが悪いと本気で思うのに止められない、そんな中毒性を孕んだ唾液を絡めて、もういっそ窒息してしまえと訳の分からないことを思った。
その間にも、余裕のない動きでバクラの片手が身体の上を這ってゆく。ジーンズの釦に短い爪が引っかかり、手慣れた仕草で外される。ジッパーが下がる音。明瞭と不明瞭が点滅する聴覚が、音色を拾い上げて羞恥を増幅させる。
電車の中では決して、直に触れたり脱がせたりすることは出来なかった。して欲しいと思っていたなんて自覚はなかった。けれど今、獏良の耳は脱がされる音を聞いて喜んでいる。一刻も早く肌に触れてほしいと――あの硬くて厚い褐色の掌が滑り込んでくることを望んでいる。
ずるん、と、ジーンズが膝あたりまで引きずり降ろされた。全部脱がす手間を省いて、必要な箇所だけを剥き出しに。いつもの言葉の揶揄もなく、バクラは舌を容赦なく吸いながらごそごそと下肢で忙しい。
頭の裏が熱くてくらくらする。目の前はちかちか、苦しくて熱くてじれったくて死にそうだ。
バクラと握り合っているのは右手。左手は所在無く放り出したまま。
彼の手は両方動いているのに自分は相変わらずのマグロ状態で、それをふと自覚したらおかしな気分になった。
バクラの為に――他人の為に何かしてやるということを獏良はよく理解できないまま、こんな年齢になってしまった。誰かを思って手を動かす方法を知らない。誰も教えてくれないから、知らないままだ。
自分が気持ち良くなる為に相手に触れることならできるけれど――先程の電車の中での行為だって、今までベッドの上で強制されてしたいやらしいことだって、云われるままにすることで獏良自身が危うい倒錯感を得られるからこそできたのであって。いずれもバクラが動いてからは自主的なまさぐりをすぐにやめてしまった。
そうではなくて、そんな中途半端なものではなく、もっとちゃんと。最後まできちんと。
その手を今なら動かせそうな気がして、そっと持ち上げてみた。
触れるのは、窮屈そうに締め付けるバクラの腰、ベルトの上。
「やど、」
ぬし、という続きの言葉は聞きたくない。呼ばれたって、何と答えていいのか分からない。
うまくいきそうだから邪魔しないで。上がる息を抑えずに、ベルトのバックルを手探りで外していく。バクラのように手慣れていないせいでもたつくけれど、それでも金属音を立てて外れたそれはフローリングの上に硬い音を立てて落ちた。された時と同じように、ジッパーを下ろしてその中へ手を忍ばせる。く、と、目の前の喉が上下したのを見て、不思議と嬉しくなった。
「きもちいんだ」
掠れる声で云ってやった。バクラは形容しがたいうめき声をあげて、それからようやっといつもの口調を取り戻す。
「今日はサービスデーか? 電車ン中といいコレといい、そんなにコイツが欲しいかよ」
「かもね。ボクもよくわかんない。……でもなんか、すごく、」
「すごく?」
「気持ち悪い」
云って、言葉とは裏腹の笑みを、獏良はくすりと浮かべて見せた。
「お前が気持ち良くなるようになんて、そのために触ってやるなんてね」
自分だけが気持ち良ければそれでよかったはずなのに、バクラが帰ってきてからはそんな風に思うことが、少しずつ減っていって――ああ、そういえば。
一張羅の真っ赤なコートの代わりにダウンジャケットを買い与えた時も、これならあいつも似合うかもね、好きそうかな、と考えていた。
ひょっとしてボクはこいつが帰ってきてからずっと、そんな風に誰かの為だとか、無意識に考えていたのかも――気づかなかっただけで。
思ったけれど、口には出さないでおこうと獏良は思った。
それより今は、手の中で手に余る熱量をどうにかしてやることが優先だ。形も色も違うそれにひたり、指先を当てる。
「っ、」
喉に詰まる声は、バクラが寸でのところで押さえたからだろう。全く、手が汚れるから嫌だと電車で云ったのに。あの時は本気でそう思っていたのに、本当に今日はおかしい。おかしいなら仕方が無い。いつもと違うことをしていつもと違う感じ方をして、それが気持ち悪いのに止められなくて笑ってしまったって、全部仕方のないことなのだ。
一方のバクラとて、不慣れな動きに翻弄されるほどだらしなくはないようで。詰まった声の後にふっと笑うと、いきなり獏良の片足を攫ってジーンズを引き抜いてしまった。ひっかかった靴も強引に抜かれて、そうして耳朶へ、悪魔のささやき。
「サービスしてくれンなら、リクエストもお願いしてえな」
「リクエスト?」
「手じゃなくて、クチ使えよ。勿論お返しもさせて頂くぜ?」
その方法を詳しく囁かれて、獏良は思わず呆れてしまった。ひっくり返って、お互いに口で――だなんて、そういう体勢でそういうことをするのはいやらしいビデオの中だけだと思っていた。
されど興味がないわけではなくて、そして今日はおかしくなっている日なのだから、と、言い訳は各種出揃っている。大声を出しても近所を気にしなくていいという理由も。
いいよと口にするかわりに、未だ熱でくらくらする身体を起こす。その足でベッドへ行く選択肢すら拾えないまま体勢を入れ替えて、平常心ではとてもできない恰好を取った。
寝転がるバクラの頭を跨いで、自分の目の前には獏良の下半身があって。
そうして口淫し合うというのがバクラの提案、である。
「……傍から見るとまぬけな恰好だよね」
「誰も見てねえんだからいいんじゃねえの?」
尻の方からバクラの笑う声がする。その息がひん剥かれた下肢に直接当たって、思わず腰が揺れた。
揺れを感じ取ってまた喉で笑う。湿った気配が近づいて――柔らかいものが、ひたり。性器の裏側を這った。
「ひゃっ……!」
いつもよりも熱い舌の先が、既に緩く反っていた性器の裏筋を辿る。普段と違う角度で舐め上げられると、快感も違ったものになるらしい。目で見えないから余計に、どんな風にされているのか分からなくてうずうずする。
そのまま未知の感覚に浸りそうになるところへ、ぺしゃりと尻を叩かれた。サボるなと云いたいらしい。
とはいえこんな状況で満足に口を使える自信もなかった。バクラはともかく獏良に口淫の経験値は少ない。強制されてしたことはあるがどちらかというとあれはバクラが獏良の頭を動かしていたのであって、そう自主的な動きでもなかった。
目の前で存在感を主張する性器へ、おずおずと手を添える。浮いた血管や太さは、何度見てもグロテスクだ。
こんなものが行き来できる己の穴は一体どうなってしまっているのだろう、そんな空恐ろしい空想をしていると余計に怖気づく。
ぎゅっと目を瞑って、まずはバクラがそうしたように、舌を尖らせて裏筋を辿った。
どくんと脈打つ感触が生々しい。やり方が分からないから、それからはずっとバクラを倣った。裏筋を辿り上げて、側面から吸いついて、張った部分に唇を擦りつけて――やがてバクラも模倣されていることに気付いたらしい。クツクツと嫌な笑い声が聞こえて来、やれるものならやってみろといわんばかりに、性器を丸ごと口の中に迎え込まれた。
「ひゃぅっ!」
倣えるわけがない。大きさ以前にその刺激に、獏良は背中を反らせて震え上がった。
勢いで外してしまった唇から、唾液と先走りが糸を引く。その仕置きと云わんばかりにバクラが、とんでもない音を立てながら獏良の性器を吸い上げた。開いた喉の奥に先端を絞られ、まるで他の生き物のようにぬらぬらと動く舌に弱い箇所を舐られる。口淫どころではない獏良はバクラの腿に額を押し付けて、ひたすらがくがくと震え続けた。
「ぅ……く、ふっ、ぅ、ぁ、ッ」
耐えなくていいと知っていても、声は抑えることに慣れてなかなか吐き出せない。苦しい。
それを我慢と勘違いしたのか、咎めるようにバクラの喉が絞まる。ひいと情けない声を上げて、獏良は腰を捩じった。
「や、ァ、バクラ、っ、ちょ、ソレ、できな、できない、っ」
口を喋ることに使えないバクラは、意を言葉以外の方法で押し付けてくる。口淫を止めれば喉を締め、腿に爪を立て、さっさとてめえも頑張れよと腰を押し付ける。獏良もどうにか口を開くけれど、吸い上げられれば思考が飛ぶ。強直な肉の竿に頬を擦りつけるのが関の山で、生臭い体液が髪に絡んでもどうすることもできない。
獏良が舌を伸ばし、触れるタイミングでバクラはきつい刺激をよこす。恐らくそうやってからかって、楽しんでいるのだろう。必死に口を使おうとする宿主サマ、を、邪魔してはせっつく、その意地の悪い繰り返し。獏良の方はきちんとバクラを気持ち良くさせてやろうという心持でいるというのに、これである。
「ッもう、なんで、折角、ァ、してあげようって、云ってる、のにっ!」
生理的な涙が滲む。腹いせに齧りついてやりたいけれどそれすらできない。
バクラはまた喉で笑うと、たっぷりじっくり時間をかけて性器を舐りながら、口から離した。
「だからいいんじゃねえか。てめえはそうやって頑張ってりゃいいんだよ」
「なに、どういう……」
満足に愛撫もできないのに何がいいのか。振り返れずにびくびくと震えたまま、獏良は呻く。
「何が、いいの、お前きもちよくなりたくないの」
「宿主サマは下手糞でいらっしゃるなからなァ、普通に口でシてもらってもそこまで悦くはねえな」
「なっ……」
「その下手糞が懸命にしゃぶりついてくるのがイイんだよ。ソレを邪魔するのもな」
云ってまた、尖らせた舌が先端を突く。そのままぐりぐりと苛められて、獏良が鳴く。
「見りゃあ分かンだろ、てめえがさっきから頬擦りしてるモンがどうなってんのか」
頬擦りだってしたくてしているのではない。結果的にそうなってしまっているだけ――という言葉も吐けない獏良は、潤んだ青い眼を横にずらして、肉々しいそれを見た。
明らかに角度が変わっている。浅く立ち上がっていた性器は硬く熱くそそり立って、まるで獏良を脅すように凶悪なフォルムを強調してくる。大した刺激も与えていないのにこんな風になるなんてことは、そう、つまり彼は生粋のサディストであって、人の嫌がることが快感に変わるわけで。即ち、
「……へんたい」
「お褒めの言葉をどうも」
獏良を翻弄することで快感を得ているらしい、性格の悪い男は悪びれずに笑った。
笑いながら、舌の先は性器ではなくもっと先へ伸びている。滴るほどのぬめりをすくい上げて潜り込んだのは、唯一受け入れることのできる入口。ほのかに赤く窄まる肉の縁を、無遠慮な舌先がこじ開けた。
「ぅあ、っ」
ぐぬりと広がる違和感は、いつになっても慣れられない。
薄い尻を掴まれて広げられ、そうしていつもよりあからさまに感じる視線に居ても立っても居られない。暗がりの自室で交わる時は指で開かれて抜き差されることが多く、こうして顔を近づけられて、煌々と眩しい灯りの下で広げられるなんてされたことがない。体勢も相俟って全て見られている――自覚すると身体が竦む。その動きが入口にも表れたのか、きゅっと窄まると舌を締め付けることになった。強引に抜いたバクラが、気が早いと意地の悪いことを云う。
「締めンのは本番ブチ込んでからにしろよ」
「そ、んなんじゃ、ないっ」