【同人再録】アラート-3【R18】

23:19

 

「――ぅ、あッ」
 ぞくぞくぞく、と、背骨を駆けあがる快感にまかせて、了は息を、声を吐き出した。
 バクラが背後で、荒い呼吸を繰り返している。二人の汗と息の分だけ部屋が湿り、吸っても吐いても温くて怠い。腰を掴む掌も、あんなに冷たかったのが嘘のように熱い。
 ひどいことをして、と強請った後、ごく当たり前の流れで交わった。
 腰を掴まれて、後ろから獣のように貫かれる。衣類もそのまま、必要な分だけを剥がされたあられもない恰好で、荒ぶる手つきで身体中をまさぐられた。
 乱暴にされるのかと思っていた。事実それでも構わなかった了だが、バクラの手は暴虐を纏わせてなお優しかった。痛めつけるような真似はしない。ただ深く、強く、底抜けにねちこい愛撫を首から始めて爪先まで。唇で指で肌全てで、溢れる程に与えられて蕩けないわけがない。避妊されなないまま射精されてしまったことが少しだけ咎める要素になるけれど、別にどうでもよかった。家族で双子だけれど、もしかしたら取り返しのつかないことになるけれど、それでもいい。どうでもいい。
 不安を快楽で上塗りできるなら、後で腹が膨れても構うものか――
 自分で思っていたよりも、胸の内側のこわばった感情は重たかったようだ。ヒトとして、女として、大事なものを了は取りこぼしていた。吐き出す湿った息と一緒に、或いは溢れてやまない官能の体液と一緒に、身体の外へ滲んでしまっている。
「これで終わりとか、思ってねえよな……?」
 薄い笑いを含んだ声が、背中側から降ってくる。深く爪が食い込んだ腰を、ぐい、と引き寄せられると中も擦れた。
 バクラの射精と合わせて達してしまった了の内部は、二人分の体液でたっぷりと満たされている。だらしなくひくつく入口の隙間から、とろり。濃い滴が垂れた。
「ゃあ、ぁ」
「やーじゃねえ、よ」
 そのまま、バクラは了の腰を掴んで体重を移動していく。崩れた胡坐をかく膝の上に、性器を差し込まれたままの了の尻が乗る。より深まる接合に、背筋を伝う快感が止まらない。
「バ、クラ、一回、やす、」
「休ませて下さい、って? 冗談じゃねえよ。こちとら抜かずの二発の予定なんですけど?」
 とんでもないことを云われた。
 意識が下腹部の内側に向く。無意識にきゅっと締め付けた雄は、精を吐き出したばかりであるというのに勢いを失いきっていなかった。若いってすごい、と、朦朧とした意識で思う了である。
「しんじゃう……」
「ンな訳ねえだろ。リクエスト通りひでえことしてやろうってのに、今更文句云うな」
「ひど、い、く、ないよ」
 日本語まで怪しくなってきた。バクラの膝の上、腰から腹へ移動した手の不穏な動きに震えなら、了は首を振る。
「ひどく、ない、だって、やさしい」
「あァ?」
「撲ったり、おさえつけたり、縛ったり、しないもの……」
「オレ様がいつ、てめえにそんなDVじみたことしたってんだよ」
 心外だという詰りは、言葉ではなく身体にあてられた。腹を這う手がきつく、硬くなった乳首を抓む。痛みと紙一重の痺れに襲われ、了は小さな悲鳴を上げた。
「したことねえだろ、そんな事」
「な、ない、ないから、やだっ」
「いつも可愛がってもらってます、だろ?」
 薄い胸は、男の手で掴まれるとすぐに骨まで探り当ててしまう。人差し指と中指の間に乳首を挟まれ、強く揉まれると、痛みと気持ち良さがまざって訳が分からなくなる――バクラは本当に、了の身体を知り尽くしていた。絶妙なバランスで天秤の皿が快楽に僅差で傾くように仕掛けてくる。
「おら、言ってみな。てめえはいつもどうされてる? 今も、オレ様に何されてんだ?」
「いう、云うから、それやだ……!」
 追撃にもう片方の乳首に細かくくすぐる悪戯をしかけられては、了は何一つ抗えない。前言撤回、これもまた、ひどいことかもしれない。こんなに気持ち良くて、甘い性交は。
「あ、ばく、バクラに、いっぱい、かわいがって、もらって、る、っ」
「どういう風に?」
「っ……!」
 ああ、本当に、意地悪で――たまらない。
「胸…、とか、揉んだり、ぐりぐりして、もらって……」
 なんてことを云っているのだろう。羞恥心などもうどこにもない筈なのに、バクラの言葉は巧みに了の心の中身を探って攫い、残骸を見つけ飲み込ませる。一度目の絶頂でかなぐり捨てた恥を、目の前に突き付けてなお、いやらしい言葉を吐かせるのだ。
 そして、無理やり言質を取られ、自覚させられる。状況を、快楽を、溺れている事実を。
「い、いじくられて、きもちよく、なっ、あ、ぁぅあっ」
 震えた語尾――と、一緒に、下腹部がきゅんと疼いた。
「――は」
 背中側の肩口で、バクラが笑った。
「上手に云えました、ってか」
 ご褒美はやはり、快感で支払われた。大蜘蛛の動きで這う手指が一度乳首を弾き、ぞわぞわと下がっていく。大きく開いた足の間は未だ深く性器が埋められ、時折ひくひくと痙攣している。そのすぐ際、薄い下生えさえ濡れそぼった秘所に、指先が忍び込んだ。
「っひ、ッ!」
 いっとう敏感な箇所を撫で上げられ、了は裏返った悲鳴を上げた。思わず足を閉じてしまう――即座に肩を噛まれ、咎められたけれど。
「何勝手に閉じてんだ。オレ様はご褒美をやろうってんだぜ? みっともねえ自白をして頂いたお礼、欲しくねえのかよ」
「や、やだ、そこ、きもちよすぎる、から、だめ」
「なら一層、お邪魔しなくちゃなんねえな――開け」
 命令だった。絶対の蜜を含んだ舌先が、肩の噛み跡を辿る。
「てめえで開けよ。脚。ギャラリーに見せるつもりで、しっかりな」
「何いって……」
「恥ずかしいの、お好きなんだろ? 乳揉まれて、ナカにブチ込まれて、とろとろンなってる股をお客様に見せるつもりで開けっつってんだ。てめえ妄想得意じゃねえか」
 そこでカメラが回ってるとでも思えよ。などと、とんでもないことをバクラは云い出した。
 感じやすく想像力豊かな了は、反射的に思ってしまった。月明かりが差し込むベッド、その丁度真ん中で貫かれる自分の正面に、視線の塊がある。ヒトの眼でもいい、バクラの云う通りカメラでもいい、しっかりとした形を持たない『視線』という概念が、了の脳裏で生まれてしまった。
 そこへ向かって足を開けとバクラは云う。できるわけがない、そんなこと、いくら頭が蕩けていたってしたくない――
 そう思って、いるのに。
「や、だ……」
 口だけが拒否を吐き、身体が裏切る。
 震える膝がゆっくりと外に向かって開き、秘所が露わになる。バクラの手を、性器を受け入れ、滴るほど濡れたそこを、妄想の視線が射るように捕えた。
「ッ……」
 背後でバクラが、低く唸る。無意識に締め付けてしまったようだ。無理もない、自分が一番信じられない。
「や、ぁ、あぁ、ばく、ら、ぁっ」
 びくびくびく、と、続けて震え上がりながら、了は遂に足を限界まで開ききった。腰でたくしあがったスカートと足首で丸まった下着がひどく滑稽だ。滑稽であるほど、快楽は増してしまう。
 こんなことをしてしまうのも、全てバクラが正しいからだ。
 了はもう、自分のことが分からない。バクラの記憶が曖昧な自分など自分ではない。だから、了よりも了のことを知っていると断言したバクラに従うことが、それこそが、あるべき了の姿になれる唯一の方法なのだ。
 だから――とんでもないことも出来る。それが了だと、バクラがそう云うのだから。
「っ……!」
 それでも羞恥は止んでくれない。
 せめて視線の妄想から顔を隠したくて首を背けた了に、荒い息のバクラが唇を寄せた。尖らせた舌先に上下の口唇を探られ、されるがままに受け入れる。
 忙しなく舌を吸われながら、開いた足の間に、遂に愛撫が届いた。ぬめりをたっぷりと掬い上げた中指の腹が、露出した芯を、ぬるり――と、撫ぜる。
「~~ッ!!」
 両脚の爪先が、激しく強く丸まった。恐らく今の刺激で軽く達してしまっただろう。熱い内部で粗相に似た感覚が滲み、再び体液が外へと漏れる。
「ひ、ッあ、や、やだやだ、ゃ、あ、それやだぁっ!」
「云う割にナカすげえ締まってんぜ。嘘吐きが」
 ご褒美がお仕置きに代わる。乳首のようにきゅっとそこを抓まれ、敏感すぎてもう痛いのだか気持ちいいのだか全く分からない。吊りそうな足の裏が熱い。丸まった爪先までが震え出す。
「だめ、っバクラ、そこ駄目、先っぽ、いじったら、やぁッ……!」
 腰を捩ることすら、もう出来なかった。
 円を描くようにぬるぬると、芯を容赦なく苛まれる。小刻みの振動を加えて細かく虐められては、まともな悲鳴すら上げらない。了は全身をひきつらせ、無様に耐えるほかなかった。
 せめての抵抗に、バクラの膝を強く掴む。弛んだジーンズの生地は汗で湿り、肌に優しくない。そんなものでもないよりましだ。爪を立て、必死に縋る。
「あ、んま、締めンな、痛ぇっての」
「むり、ぁ、勝手に、ぎゅって、しちゃ」
「このまま動いたら、もぎ取られちまうんじゃねえの」
 試してみるか。
 上ずり始めたバクラの声が、楽しそうにそう云った。
 蕩け、痺れ、口の端から唾液すらたらした了に止められる訳がない。頭の片隅で、そんなことをしたらおかしくなる、壊れてしまう、止めないと、と叫ぶ声があったが、理解する前に快楽の波に捕らわれて消えてしまった。能動的な思考はどこにもない。されるがままに、嵐の中の小舟のように、翻弄され転覆するしか道は残されていないのだ。
「…ま、支えねえと腰使えねえからな、残念ながら」
「ふ、ぇぁ?」
「聞こえてねえか。――なァ」
 揺さぶられる期待に、了の腰はひくひくと前後し始めている。性器の形がわかる位にきつく締め上げた内部で、バクラの雄が硬さを取り戻していくことは、朦朧とした頭でも理解できた。
 硬くなったら、穿たれる。身体はしっかり覚えており、その準備を勝手に始めた。すすりあげるような蠕動を繰り返す内襞に呻きながら、バクラはゆるり、と了の手を取った。
「気持ちいいことしようぜ、宿主」
 そのまま、導かれるままに了は、己の秘所に指をあてる。
「突いてやるから、てめえでココ弄れ。一番悦くなるように苛めてやれ。オレ様がするみてえに、な」
「ばくら…が、する、してるの?」
「あァ、てめえの指じゃねえと思え。その指はオレ様の指だ。だから、すげえやらしい動きだってできる。そうだろ?」
「ん、うん……」
 言葉は魔法のように染みる。了は云われるまま、自分の指とバクラの指をうまく混同させることができた。
 オレ様にされてえことをすりゃあいい――淫靡な余韻を絡めた言霊が、了の指を動かせる。自慰でも出来ないような、容赦のない苛め方で。
「ひゃうっ!」
 くにくにと抓み上げて扱く、とんでもない動きだった。熱を持って腫れあがった肉の芽に、溢れた体液を塗りつけて細かく弄る。敏感すぎるそこは痛みを超越した、白光の如き快感を了に与えた。電気刑に処される死刑囚のように了は震え、激しく身体を反り上がらせる。
 優しく抱き留める腕はない。バクラは強引に了の腰を掴むと、真下からの容赦ない突き上げを始めた。
「ッあ、ァ、やぅ、は、っああッ!」
 顎ががくんがくん、激しく揺れる。首を支えられない了にとって、心と一緒に頭まで掻き回される気分を味わった。
 体重がかかる分、スムーズな注挿は望めない。深く食い込ませた性器を細かく擦りつける動きを繰りかえされ、その箇所は了の一番気持ちのいい場所だ。加えて淫芯を弄っているのだから、快楽の飽和量はとっくに超えている。
「ぅ、んッ、あっ、あぁ…ッ!」
 開きっぱなしの口から、聞くに堪えない声が溢れて止まない。ただ瞼が開いているだけで何も映していない、映せない瞳が生理的な涙で潤む。ひとつ擦られる度に大袈裟に揺れる身体を、バクラの腕だけが辛うじて支えていた。手を離されたら為す術なく沈むだろう。
 どうしてこんなことになったのか、始まりももう遥か彼方だ。気持ちいいだけで思考は埋め尽くされ、身体中から官能が滲んで滴る。
 汗で張り付く髪を分け、荒い息のバクラが首筋を舐めた。その瞬間だけ意識が鮮明になり、痺れてはまた鈍る。尖った犬歯に肌を破られても、痛いとすら言えない了だ。
 ひどいひどいひどい、ほんとうに、ひどいことされている。
 緊張と弛緩を繰り返しながら、了は締まりのない口で翻弄を吐き出した。
「すご、ぁ、ぼく、ぁ、バクラにぃっそご、い、やらし、こと、されて、あ!」
 そんな支離滅裂な言葉も、快感を引き出す引鉄になる。バクラが呻き、そうかい、と笑った。
「云って、みろよッ……何、されてんのか」
「うしろから、ッなか、突かれ、て、前の、あ、きもちいとこ、ぬるぬるされ、てる、あ、やだ、も、っ、無理、むり…!」
現状を吐けば吐くほど、自覚が増して、際限がない――どこまで落ちるのか、それとも昇るのか、前後左右に身体を捩り、了は乱れる。されるがままに、ただバクラの思い通りに。
「さっきイったばっかじゃねえ、か、もちっと頑張れよ、ッ」
「わか、んないもう、何、ァ、ぜんぶ、バクラの、バクラがぁっ」
 会話にもならなかった。了の手は自慰を忘れてただ添えるだけに成り果てている。揺さぶられる度に指も動く為、この行為ですら自発的ではない。パッシブの権化となった身体は最早人形だ。それでも、揺さぶられてずれた指の先が己の性器、バクラを食い締める箇所に触れるとびくんと震える。根元まで埋まった雄のつなぎ目を撫ぜて、了は笑う。
「はいって、る、ッ、バクラの、」
 譫言を呟いたら、バクラが不意に、ぎゅっと身体を引き寄せてきた。
「当たり前だろ、てめえを、犯してんだ」
 その言葉を、うれしい――と、思った。
 理由は喪失している。ただ、バクラが自分を求めていること、触れ合えていること、肉の温度、肌を滑る汗を、共有していることを喜びと感じた。
「ど、して、だろ」
 問いかけではない独白が、吐息を混じらせ揮発する。
「っと、こうして、欲しかったきが、する」
 触れ合えることが、触れられることか。
 求められることが、全てが嬉しい。
 そんなのはおかしいのに――十年以上、生まれてからずっと一緒にいたはずなのに、こんなことは何度も繰り返しているはずなのに。何故今更になって、こんなにも幸せを感じるのだろう。
「――余所事考えてんなよ」
「あぅ」
 咎めと共に、体重がかかる。再び獣の姿勢になり、後はもう、力任せの注挿だ。
「だって、ッこんなやさし、してくれるとか、思わなくてッあ」
「オレ様は、昔っから優しいっての」
「むか、し」
 昔って――なんだっけ。
 バクラのことがわからなくなって、怖くて、不安で。そうしたら優しくされて、全身全霊で抱かれている、今。
 ずっと望んでいたものを与えられた満足感が、快感と混じった。名前のない、途方もなく膨大な幸福感に代わった。
 あの恐怖は、苛立ちはどこへ行ってしまったのだろう。もう跡形もない。気持ちいいだけだ。この気持ち良さを得る為に苦しんでいたとすら思える。
 揺さぶられる中、ちかちか点滅する瞼の裏に今日の出来事が流れていく。朝、バクラに手を引かれて登校したこと。昼にバクラの話を友人としたこと。帰りにバクラと一緒に買いものをしたこと、食事をしたこと、喚き散らしたこと、抱かれている、今。バクラバクラバクラ、全てバクラだ。他には何もない。思い出せなくたってもう構わない。一緒に居てくれるならもうどうだっていい。不安になる度に、バクラはきっと優しくしてくれる。ずっとそうして欲しかったから。
(――ずっと?)
 ずっとって、なんだ。

 

 ――ちりちりちりちり

 

「ッ……!?」
 何故こんな時に――あの、耳鳴りに似た、秒針が。
「や、ぁ、やめ、待っ、音」
「音ォ? ああ、てめえの中でグチャグチャいってるやらしい音か?」
「ちがう、針、はり、止めて」
「……あー、コレか」
 バクラは面倒そうに舌打ちをすると、腰を進める力を少し緩め、手を伸ばしたようだった。背中側から腕が伸び、ベッドサイドに置かれた時計を手にする。空色の丸い目覚まし時計を、彼は躊躇なくひっくり返して電池を抜く。
 音は――止まなかった。
「な、んで」
 音はどんどん大きくなる。不安を塗りつぶした快楽、その快楽をさらに上塗りするような、津波のような音が響く。鳴り響く心音、時計の音。了を急かす音。
 唐突に、その意味を理解した。
 時計の音などではない。これは警鐘だ。
 了の中の誰かが、現状を危惧して鳴らす、目覚めの警鐘だ。
(目を)
 さまさなくちゃ、早く。
 朝方の、奇妙な記憶を思い出す。目を覚まさないといけない。後悔する。意味など分からない。けれど間違いないという確信があった。急かす声は紛れもなく自分自身の、了の声だった。 
 早く目覚めて、気が付いて。このままでいたらボクは後悔する、と。
 ――でも。
「ばく、ら、ぁ、もうッ」
 意識は限界を訴えている。目を覚ますならせめて、最後まで落ち切りたい。中を埋める熱も暴発しそうだ。
「おねが、早く、はやくっ」
「イきそう、ってか」
「違うのっ、そうだけど、出して、ほし、なか」
 平素ではとてもではないが口に出来ない。中に射精して欲しいなどと、十代の少女が云ってよい台詞ではない。
 けれどもう限界なのだ。何かからか分からないけれど了は追い詰められている。もう音は割れ鐘のように了の脳内を暴れまわって、目を覚ませと急かしてくる。このままでいてはいけないと、引き剥がそうとしてくる。
 恐い、こわいこわいこわい。
 あの声は、幸せを奪う気だ。
 了の幸せを、バクラを、今すぐにでも。
 だったらせめて、証拠がほしい。
「おねが――」
 了は喘いだ。前屈みになるバクラを逃がさないよう、ありったけの甘さと必死さで性器を啜り上げて。
(バクラ、)
 せめて、おまえがここにいたっていう、ボクと触れ合ったっていう証を、ボクの中に。
「すきだって、きもちいって、云っ