【同人再録】HOLE-5【R18】
3.
――昨日。
の、ことを思い出そうとして、それが不可能であることにバクラは気が付いた。
昨日は一度も、現実の世界に顔を出していない。獏良が耐えかねてバクラに助けを求めるまで顔を出すまい、と計画していたのである。
その間何をしていたかというと――居心地の良い宿主サマの心の部屋で、考えていたのは獏良とは全く別のこと。ままごと遊びに似た戯れより余程大切な、己の計画について思考を巡らせていた。
この手指には幾重もの、策略の糸が絡みついている。それらを手繰って、あるいは弛ませて。今後について考えているうちに、正直、獏良のことも獏良に仕掛けた意地の悪い悪戯のこともすっかり忘れていた。
時間経過の感覚が薄い闇の中だが、長くここへ根を巡らせているバクラならば二十四時間の周期程度は把握出来る。一昨日の朝から大分経って、もう一日が過ぎていた。
バクラとて睡眠――に似た休息を取ることもある。闇は自己と同一にしていっとう寝心地の良い褥だ。同化して目を閉じ、眠るというより交じり合ってそこにない存在になることは、彼にとって唯一と云ってもいい安寧の時間でもある。
その休息から覚めて、そう、そして、この穴を見つけたのだった。
「……あァ」
なるほどな、と呟いて、バクラは身体を起こす。
いつの間にか半分眠って、姿は闇に溶けかけていた。手を一振りすると獏良と同じ、生白い色をした腕がひゅんと浮かび上がる。
何の意味もなく、握って開き。
裸足の爪先の向こうの、口を開いた穴を見る。
「さて、どうしたもんか」
この穴の正体が何なのかは、おぼろげながら理解できた。戯れに仕掛けた悪戯を失念していた自分も自分だが――いや、まさか軽い色事程度でこんな面倒くさい引きこもり方をされるとは露程も思っていなかったのだ――ともかく穴の向こうで獏良は拗ねているのか耐えているのかのいずれかだろう。
穴の原因はオトモダチとの軋轢だと思っていたが、あにはからんや、犯人は自分であった。
「……詰めが甘かった」
と、小さく舌を打つ。
昨日のことは分からないが、想像はできる。
助けを求めて現実でバクラを呼んだが、眠っていたバクラはそれに全く気が付かず、ぐるぐると苦しむうちに精神が音を上げただとか。そういう様子は想像に難くない。大方学校は休んだろうから、身体は今も中途半端な体調不良を抱えてベッドの住人となって居るはず。
そして、肝心の意識はこの穴の中。
蹲って、じくじくと疼く身体を抑えてバクラに呪いの言葉でも呟いているに違いない。その腹の内で、きっと欲望は黒く甘くとぐろを巻いている。
我慢できずに己で性欲処理をしていたら、こんな穴はできないだろう。この穴の存在が、獏良がまだ精を吐き出せずに悶々としていることを示している。
それならば、この後行うべき行為はただ一つ。
二食分ほど抜いた食欲を、たっぷり満たさせて頂くとしよう。
ひょいと音がしそうなほど軽い動きで、バクラは勢いをつけて穴の奥へと身体を躍らせた。
景色は何も変わらない。元居た場所も落ちている今も黒塗りの真っ暗だ。空気などないのに落下している感覚が頬を撫でていくので、ああ今落ちているなと分かるだけ。
深さ浅さは考えていなかったが、なかなか終わりに辿り着かない。上っているのか落ちているのか分からなくなった頃、不意に、とつん、と足の裏に温い闇が触れた。
「っ、と」
泥濘に足を突っ込んだ。そんな感触がした。
温度も感触もない獏良の心の部屋では珍しいことだ。見回す辺りの空間も、不穏に不機嫌に、そして苛々と渦を巻いているように見える。
なるほどここが宿主サマの最深部か。いっそう居心地のいいことで。
と、呟いたところで、目的のものは探す必要もなく見つかった。
闇に目立つ白い髪。それが、そう遠くない場所でぽつんと浮かび上がっている。
身にまとっているのは見慣れた寝間着。
獏良はきゅっと背中を丸めて蹲っていた。たまに何か、声になり損ねた呟きの音色が聞こえてくる。意識はあるようだ。
「宿主」
声を掛けると、びくん。
肩が大きく跳ねあがり、そして、その跳ねた肩越しに白い顔がこちらを向いた。
「なァにやってんだ、こんな奥の方で」
「っ……!」
バクラを視認した途端、獏良はさっと身体を捻って逃げようとした。立ち上がる動きもなく四つ這いのまま、闇の裏側に隠れようとする。
そうはいかない。追いかけっこをしたくてここに来たのではないのだ。
バクラは鼻を鳴らして、軽く手を振った。
しゅるんと音がして、泥濘から一条の鞭が生成される。それは爬虫類の舌のように素早く伸びて、獏良の足首に絡みついた。
「あ、っ」
逃走の間際で捕らわれ、獏良が声を上げる。べたんと頬を打ち付けて倒れた、その細い身体に更にふたつみっつ、と、暗い手が伸びる。そのうねうねとした形のある奔流の脇を、バクラは悠々とした足取りで進んで行った。
ぴたり。足を止めたのは、手足を床に拘束された獏良の目の前。四つん這いからひっくり返され、尻もちをついた姿勢で後ろ手に手首を括られた姿はなかなか見ものだった。
「よお宿主サマ、ご機嫌うるわしゅう」
「……何これ」
どういうことなの、と、恨めし気な口調で獏良は云う。これというのは手足に絡む舌とも蔦ともつかない触手のことだろう。忌々しげに睨み付ける目がいかにも敵視の視線そのもので、バクラはくつりと笑った。
「何って、てめえの心の一部だろ」
「ボクの心の一部が、なんでお前の云うこと聞くの」
「そりゃあ、オレ様が宿主サマのお部屋を間借りさせて頂いてる身だからじゃねえか?」
「……説明になってない」
「ドロドロしたモンとは仲良しでな、てめえよりよっぽど、ココの扱いは手慣れてんだ」
だからこんなこともできる、と、バクラは更に手を振った。両足を縫い付けていた拘束が片方だけ解け、すぐに他の闇と同化して、触手は融解した。
「で、宿主サマからの説明はいつして頂けるんだ?」
「……」
切り返した説明に、獏良は唇を噛んでふいとそっぽを向いた。
喋る気は無いらしい。
顔を背けた時、前髪に隠れる前に一瞬覗いた瞳はひどく潤んでいた。泣いていたのではない、恐らくは生理的な原因で、青い眼は熱を持っている。
その一瞬だけで、ああやっぱりこいつは溜め込んだままだなとバクラは理解した。
もう一歩近づく。途端に、べたりと甘ったるいような匂いが嗅覚に触れた。肉汁が滴るような、接触を誘うような――そう、激しく食欲を刺激する、匂い。
思わず、ごくりと喉を鳴らした。
すっかり忘れていた食欲が急に頭を擡げ出す。視線は獏良の凹んだ下腹部に釘付けになり、ああ、あそこにぶちこんだ種がとんでもなく育っているのだと想像。予想以上の出来栄えに、口笛を吹きたい気分になった。
宿主サマ、と、繰り返して呼んでやる。
顎を上げ、如何にも見下す瞳でもって眺める。獏良はそれを受けて、しばらく素知らぬふりをしていたけれど――それもすぐに限界が来た。
欲の煙る視線に晒されて、ぎゅ、と、膝と膝がこすれ合う。
「っ…… なんで、来るんだ、お前はっ」
「宿主サマが来てくれっつって、わざわざ入口を用意してくれてたからだろ」
大袈裟な玄関をどうも、と、バクラは上を指さす。見えないけれど、そこにはバクラを迎えた穴が今も口を開いて居るはずだ。
「来てほしいんじゃなきゃ、こんな穴は開かねえぜ」
「違う、お前の顔なんか見たくない!」
「何だ、怒ってんのか? あんなんただのお遊びじゃねえか。てめえの好きな楽しいこと、そんだけさ」
「っ違う、それもあるけど、ちがう!」
軽口が終わるか終らないかのところで、獏良は急に声を張り上げた。噛みつかんばかりの勢いに、バクラも大きく目を開く。
下からぎりぎりとねめつける、獏良の青い眼は綺麗だった。舐めたらさぞかし美味いだろうと場違いなことを思う。
「お前、おまえがっ、おまえのせいで、皆がっ」
「あァ?」
「マラソン大会だって、っ、」
それきり、獏良はううう、と唸って、膝を擦りあわせつつ俯いてしまった。
これはどうも、予想していた結果とは微妙に違っているようだ。ヒントが少なすぎて察しきれないバクラは、眉を寄せて思考する。いつもなら獏良の考えていること――特にこうした、感情に特化した部分の出来事はわりとあっさり見破れるのだけれど、良い匂いがあたりに充満して鼻が利かない。そんなことよりもう喰らってしまえと思うくらい、凶暴な食欲が疼く。
こういう時はからかわず、しおらしい演技をするに限る。バクラは意図して困り顔を作り、悪かった、と、得意の二枚舌で言葉を練り上げた。
「何かあったんだな? 云ってみろよ」
「い、いやだ、お前なんかに云いたくない」
「知りてえんだよ、宿主サマのことは全部……なァ?」
触れるのはもう少し先でいい。威圧感を無くす為に獏良の前にしゃがみ込んで、浮かべるのは緩い笑み。
宿主サマ。甘くそう呼ばれるのが嫌いでなくなっていることは把握済みだ。だからもう一度、呼ぶ。
獏良は俯いたまま、目だけを上げて、前髪の隙間からバクラを見た。
しばしの沈黙。
やがて、噛み締めた唇がふるふると震え、噛み痕を残したまま小さく開いた。
「……き、のう、皆、来て」
「へえ?」
皆、というのはバクラの敵にして獏良のオトモダチ連中である。差し詰め、学校を休んだ獏良を心配して、シュークリームでも持って見舞いに来たというところか。
「でも、ボク身体ずっと変で、お前があんなことするから」
「それで?」
「みんな、来てくれたのに、それなのに、っ……!」
その先は云われなくても分かった。
想像する。深い眠りにもつけず、疼く身体を抑えて体調が悪化するばかりの獏良の姿。もともと休む計画だった日は思惑通りに休み得たようだ。
そしてオトモダチが見舞いに来た。彼らは獏良を心配して訪ねて来、チャイムを押したに違いない。そんなものは無視すればよいものの――いや、獏良家のマンションは少しばかり壁が薄い。あの喧しい連中が喋りながら外廊下を歩いてきたなら、室内にいても優に耳へ届く。そして、訪ねてきた彼らを獏良が無碍になど出来るはずもない。
前屈みになる身体を毛布で包んで、団体の客人を迎える。口々に大丈夫かと云われ、見舞いの品を渡されて、ありがとうと乾いた笑いを浮かべる獏良自身はそれどころではないというのに。
羽布団で隠した身体が悶える。早く帰ってと願う。
「それで、てめえは頑張って腰捩りてえのを我慢し続けたってことか」
「せっかく来てくれたのに、追い返して、ボク、っみんなと、仲良くなりたい、のに!」
迷惑じゃないのに、迷惑だった。相反する感情に翻弄されて、結局獏良は彼らを早々に帰らせてしまったのだと云う。
ああ――そういえば、モンスター・ワールドの一件から初めてだったのではなかろうか、獏良の家に友人が訪れるというのは。
口には出さずとも、いつかまた遊びに来てほしいと願っていたのは知っている。それがこんな形で叶い、そして終わってしまったことを獏良は悔やんでいるのだった。
「もうみんな、来てくれないかもしれない」
ネガティブが衣になって、幾重にも重なっていく。
こうなってしまった獏良に前向きなことを云い聞かせても無駄である。躁と鬱の波、その鬱の大きな波が、体調不良と欲の我慢に挟まれて訳の分からない塊へと化学変化を起こしている。この心の底の泥濘もそのせいだろう。
「マラソン大会、たいへんだったけどたのしかったって皆云うんだ、ボク、は、そこにいないのに」
休みたがったのはてめえだろう――というのは、云わない方いい。バクラはただ頷いて、内心でせせら笑うに留める。
「ぼくがいないから、楽しいんだ、みんな」
恐らく、連中にそんな感情はない。おめでたくも仲良しこよしな奴らなのだ。大会のことを話したのも、休んだクラスメイトにその様子を伝えようというただそれだけ。
悪意がないからこそ、迷惑な善意。ネガティブに捕らわれた獏良には悪い方向にしか作用しない。
それから、獏良は切れ切れの言葉でもってたっぷりと、どろどろした胸の内を吐き出した。
お前のせいだ、お前があんなことしなかったら、という八つ当たりが繰り返される。あまりにも稚拙なので腹も立たない。何だ、原因は確かに自分だったがその半分はやっぱりオトモダチじゃねえか――と呆れた顔で思ったりもした。
(馬鹿な宿主だ)
向こうはてめえの云うことすることを気にしちゃいないんだぜ、という気休めを思いついたが、云う必要はなかった。云ったところで獏良は決して肯定しないし、それで癒されるわけでも、機嫌がよくなるわけでも、何かが解決するわけでもないのだから。
それよりももう、腹が痛いほど減っている。
「ああ分かった。もう喋んな」
そりゃあ悪かった――などという思ってもいないほらを吹いて、バクラは獏良の髪の一房に手を触れた。
「オレ様が意地悪しちまったからな。構わなかったんだぜ、てめえで処理しちまってもよ」
「で、できなかった、そんなの」
「んン?」
「した、けど、駄目だった、って云ってるの」
羞恥心はどこに置いてきてしまったのか。半泣きの獏良はわなわなと唇を震わせる。
したけど出来なかった。つまり、我慢できずに自慰をしたけれど射精できなかった、ということか。
「オレ様の手じゃねえと、イけねえ身体になっちまったって?」
「だって全然違うっ……!」
言い訳をする口調で云い、獏良は首を振った。
獏良の手淫が稚拙なことはよく知っている。バクラとああいったことをする前は性にとんと無頓着で、数える程度の自慰しか必要が無かった。それがバクラとの交わりで身体にしっかり染みついて、遂にはバクラの手で、バクラが動かすのではないと満足できないまでに育ってしまっている。
つまりはそういうことで――調教と依存はこの上なく深まっている、ということをこんなところで改めて再認識させられたのだった。
「苦しい、もう、やだ」
唯一自由になる上半身を傾けて、獏良は額を、しゃがみ込んだバクラの肩に擦りつける。
ねえ、と、必死で甘い声が肌の上を這った。
「責任とってよ、バクラ……」
友人とのことも、風邪で辛いことも、我慢していることも全部。
その言葉に対する答えは、イエス以外にあり得ない。
獏良の願いを叶えてやりたいのではない。この疼いて疼いてたまらない食欲が、限界なのだ。
わがままな欲望と、独りよがりのネガティブで育った最高のごちそうが、すぐ目の前にある。予想していたよりもはるかにいい具合の醸造に、バクラは獏良の見えないところでにたりと笑んだ。
これも遊びの延長線上。そして、食事。
「この上なく了解したぜ、宿主サマ」
さあ、ご馳走して頂くとしましょうか――
混乱が乗じて幼児退行でもしているのか、やたら舌の足りない獏良の喉を唇で宥めて、バクラは口調だけは優しく、そう云ってやった。
手始めに、細い喉に目立つおうとつを辿って鎖骨まで愛撫を滑らせる。
「ぁう……っ」
たったそれだけで、堪える気のない悲鳴が漏れるのだから相当だ。
「手でして欲しい、んだったよなァ?」
三日前のおねだりを思い出して、バクラは囁く。
うん、と素直な唇が云い、獏良は自分から足を開いた。しゅるしゅると音を立てて、片足を固定していた闇の蔦がほどけていく。
もう恥も外聞も意地も何もありはしない。足の間に滑り込む手のひらにぐいぐいと股間が擦りつけられる。腕は背中で括られたままなので動きづらそうだ。
それを解いてくれという余裕さえ、今の獏良にはないらしい。柔らかい素材の寝間着と裏腹に、布の向こうの性器はすっかり突っ張って爆発寸前だ。
「すげえ熱いな」
じっとりと重たいそれを軽くさすって、バクラは云う。ひと擦りで、ビクン。細い腰は鋭く跳ねた。
「あ、は……ッ」
限界を超えた我慢が、また獏良の口を開かせる。
「ちょくせつ、触って、じかに、っ」
「ハイハイ」
もとよりそのつもりである。手慣れた仕草でズボンを下着ごとまとめて足から抜き、ぽいと捨てた。
後には切なげに震える、痛いほど硬くなったむき出しの性器が残るばかり。
焦らす意地悪はもうしない。真っ赤になった耳朶を甘噛みしながら、バクラは握り込んだそれの先端を、親指の腹でぬるぬると撫ぜてやる。
「ひゃぅ、あ、っ!」
たったそれだけ――軽く刺激しただけで、あっけなく、獏良は一度目の熱を吐き出した。
「……これはこれは」
これには流石のバクラも目を丸くした。まさかこんなに早く、濃い塊を吐き出してくれるとは。
軽くさすりつつ移動して、その美味なる熱を唇で啜り上げてやろうと思っていたのに――甘い汗の前菜もろくに味わっていない状態で、もう射精されてしまった。いくらここが心の部屋であり、肉体の状態とは関係なしに感じた分だけの快感を反映する場所でも早すぎだ。
随分と勿体ないことをする。
手のひらと、獏良の腹に散った精液を残念そうに眺めて、バクラは云った。
獏良の耳には届いていないようで、そして、一度吐き出してもまだ萎えない。震える爪先がもどかしさを表して、闇を掻く。
「分かってるって、焦ンなよ」
その足を、膝をひと撫ぜすることで宥め、バクラは手のひらにべったりと付着した精液に舌を伸ばした。
手首に向けて重たく垂れる滴を下から舐め上げ、嚥下。味蕾に染みて広がる甘さに、思わず満足のため息が漏れた。
「美味ぇな、相変わらず」
「っ、なに……?」
「いや、こっちの話だ」
お気になさらず――囁いて、もうひと舐め。それからふた舐め。どろりとした白濁が喉に絡み、それらは咽るほどの美味としてバクラの臓腑に落ちた。
ヒトとは違う味覚。他人の負の感情が美味くて仕方ない。その塊たる、欲望をたんまりと溜めた獏良の精は格別の味をしていた。
すっかり手を綺麗にしてしまったら、次は腹の上。寝間着の上に飛んでしまった分は、布生地を舐めるのが嫌なので見逃すことにする。滑らかな肌の上でないと味が落ちるのだ。最高の食事は最高の皿の上で喰らわねば。
「ふぁ、ア、んんッ」
汗が滲む肌の上を、バクラの舌が行き来する。舐めとってはひとつひとつ、たっぷり味わってからゆっくり飲み込んだ。窪んだ臍の周りを探って、もう食べ残しはないかと確認する。
残っているのは、まだ熱を保っている性器そのものだけだ。
「宿主サマ」
「ん、」
「イタダキマス」
慇懃なまでに礼儀正しく。バクラは唇を三日月のかたちに吊り上げ、それから満月へと変えて――
くぷり。
粘着質な音を立て、痛ましい性器を、口の中に迎え入れた。
「ひゃっ……!」
予想通りの高い声が、暗い部屋の底の底をじんと震わせて響く。
脹脛が攣りそうなほど突っ張ったのを、視線の端でバクラは見た。気の早いことだと舌を巻きつけながら思う。今からそんな風では、とてももたないだろうに。
手でして欲しいというおねだりを違えないよう、きちんと指も絡めてやる。根元の辺りを人さし指と中指で挟んで扱き、先端は唇で丁寧に撫でると、いい感じに腰が揺れた。軽く歯を引っ掻けてやるのは意地悪ではなく、こうされると喜ぶと知っているから。
「ぁ、ぁッ、ばく、ばくら、ァ……!」
上目だけ上げて眺める。獏良の表情は情けなく歪んでいた。ぎゅっと瞑った瞼の縁から、快感で生まれた涙が玉になって伝うのが見える。
あの涙だってきっと甘い。舐めとれないのが残念だ。
「はぅ、あ、んんっ、んーっ……!」
濃い精の匂いを撒き散らして、腰が足が、もの欲しそうに跳ねる。鼻から出す息が肌を滑るだけでも感じるらしい――頬を窄めてきつく吸うと、汗を散らして仰け反り上がる。
ちゅる、ぢゅく、と、濡れた音を立てて可愛がられ、獏良はぎゅっと眉を寄せながらすすり泣いた。気持ち良すぎて涙腺が壊れ、ぼろぼろと涙が零れる。
そんなにして欲しかったかと、余計な意地悪を云いそうになったバクラは舌を裏筋に這わせることで黙った。いま口は忙しいのだ。たっぷりのご馳走を喉に叩きつけて頂かないと、こちらの食欲も満足できない。
「きもち、い、あ、ばくら、ァっ!」
あられもなく鳴く、獏良の身体が後ろ向きにぐらりと傾ぐ。自重を支えきれず闇に倒れ、しかし足は開いたまま。
一昨日のベッドの上よりもみだらに開いた姿を、まるで見せつけるように腰が持ち上がる。もっとして、もっと舐めてとうわごとのように唇が云った。
あけすけすぎて頭の悪いおねだり。嫌いではない。
「ずっと、ア、我慢っ、してた、んだから、おまえが、」