【同人再録】TRIPOD365!-1


発行: 2011/08/12
3ばく同居+双子設定(盗賊王はいとこ)の全員血縁現代パラレル本。
バク獏♀で盗獏♀。
二人がかりで宿主♀サンドイッチしたり取り合ったりするほのぼのっとしたエロ本になりました。

・小説:書き下ろし
・表紙:半田96様


「おいてめえ、ちょっとツラ貸せ」
 と。
 ダイニングテーブルを音高く叩いたバクラが云うのを、盗賊王はソファの肘掛けに頭を乗せたまま視線で応えた。
 日差しも心地よい梅雨明けの日曜日。昨日までやかましく窓を叩いていた雨は未明に雨雲ごと消え去り、日が昇ると濡れたアスファルトすらきらきらと輝く気持ちの良い天気となった。
 日差しの恩恵降り注ぐ正午、了はご機嫌でクラスメイトと共に出かけ、盗賊王はソファの上――獏良家で最も日当たりと居心地の良い場所である――に寝そべって暇をつぶし、バクラは不機嫌にテーブルを叩いている、というわけだった。
 盗賊王のいとこの双子達、の可愛くない方であるバクラは苛々と爪先で卓上を引っ掻き、
「ツラ貸せってんだよ、非正規雇用野郎」
「派遣社員バカにすんじゃねえ。てめえで稼げねえ学生サンが」
 放たれるのは不機嫌な応酬。これは彼らにしてみれば「こんにちは」「ごきげんいかが」くらいの軽い挨拶に当たる。
 生まれてこの方、了と共に暮らし続け数年前に二人暮らし状態になり、それから双子としてあるまじき関係をゆるゆると結ぶバクラにとって、三か月前に唐突に転がり込んできた同じ名前の男は厄介者以外の何者でもない。盗賊王の方も、以前から目をつけていたいとこの双子の可愛い方こと了とあれこれと楽しい生活を思い浮かべて童実野町まで身一つでやってきたものの、非常に厄介な片割れが何かと口をはさむので非常に邪魔なのである。
 男二人、いとこ間の仲は非常に悪い。手綱を取れるのは了しかいないが、彼女は基本、二人のいざこざは放置である――己が原因であるにも関わらず。
 苛々とテーブルを叩くバクラに、しぶしぶ盗賊王は起き上がる。肘掛けの形に寝癖がついているのをぐしぐしと手櫛で均しつつ、彼の身体には小さすぎるダイニングチェアに着席。向かって正面で、バクラも己の席に着く。
 テーブルの上には、A5サイズほどの卓上カレンダーがあった。
「何だこりゃあ」
「カレンダーも知らねえのか、流石は田舎モンだな」
「そういう意味じゃねえ。何だ、家事当番でも決めんのか?」
「そんなモン決めたところでてめえ家事やんねえだろうが。
 ――宿主について、いい加減はっきりさせておこうと思ってな」
 云って、くるん。バクラは指に挟んだ二色ボールペンを器用に一回転させる。
 盗賊王は眉をぴくりと動かし、ふうんと鼻を鳴らした。
「了がどっちのモンか、はっきりさせようってか?」
 だったらまどろっこしいことなんざしねえで、こっちでカタつけようぜ――と、盗賊王は太い二の腕を叩いて見せた。
 会話など必要ない、惚れた女は腕づくで手に入れる。それが彼の信条である。
 ところがバクラはあからさまに見下した風に肩を竦め、顎を跳ね上げて、事実見下した角度でせせら笑った・
「は、これだから中卒は。短絡的で困るぜ」
「ンだと?」
「ようく考えてから物云いな。オレ様とてめえがガチでやろうが穏便に話し合いしようが、方法は問わねえが。それで宿主がどっちの女かって、決まると思ってんのか?」
「そりゃあ決まンだろ。負けた方が出ていきゃあいい」
「そういうことを云ってんじゃねえんだよ。宿主が、納得するかっつってんだ」
「――ああ」
 そうか、と盗賊王は手を叩いた。
 了の意思をすっかり忘れていた。そして、その了の意思こそが一等厄介な問題であることも。
 バクラと了は数年前から、双子という関係を超えた濃ゆい肉体関係がある。
 盗賊王と了の間にも、転がり込んできてすぐに肉体関係が芽生えた。
 これは盗賊王の方が、バクラと了はただの双子であると勝手に判断して疑わなかったが故の事故であり――発覚した際のバクラのブチギレっぷりは他に類を見ないものであった――その関係は両者において継続中である。
 了はどちらか片方を選ばない。否、両方を選ぶ、という選択肢を固定しているらしい。
『だって嬉しいじゃないか、二人ともボクのこと、好いてくれてるんでしょう?』
 欠片ほどの罪悪感もなく笑顔で云った了。
 彼女の名誉の為に補足するならば、了は俗にビッチと呼ばれる類の生き物ではない。かといってニンフォマニアでもセックス依存症でもない。バクラと盗賊王以外の男性を知らず、付き合ったことも、キスすらもしたことが無い。
 言葉の通り純粋に、了は彼らが自分を好いているという事実が幸せで仕方なく、どちらかを選ぶのでもどちらも選ばないのでもなく、どちらも選んで、三人で一緒に居たいと云うのだ。
 家族で恋人で、最高だよね――
 というのが、了の言い分である。
 無論男二人は、この選択に納得している訳ではない。好いた女は我が物にしてこそ。たとえ親類であろうと他の男の手に委ねるなど我慢できない。好きな時に抱けないのは性欲的にも精神的にも辛いものがある。何せ了と来たら男性陣の視線などおかまいなしに、風呂上りや着替えの際に惜しげもなく足だの腕だのを晒すのだから、むらむらするなという方が無茶だ。
 育ちざかりの男が二人、しかも我慢事とは縁遠い性格の二人である。限界だ、と了の寝室に突貫したら先にどちらかが手を出していたという事故は後が絶たない。
 が、バクラの云う通り、この両者の間でどちらかが身を引いても了は悲しむ。
 結局なし崩しのなあなあになって三ヶ月。業を煮やしたバクラが力ずくの決着を望んだのかと盗賊王は思ったが、そうではないらしい。
 そこでずい、と突き出してきたのが、カレンダーだった。
「宿主がどっちつかずなのは仕方ねえ。あいつの頭ン中はまだまだガキだ、色恋には疎い」
「エロい方の知識はばっちりだけどなァ」
「オレ様が仕込んだんだから完璧に決まってんだろ。それより。
 てめえも身を以て理解してると思うが、問題はブッキングだ」
 とん、と、ペンでカレンダーを叩いて、バクラは続ける。
「昨日も乱入してきやがって。宿主はあれで結構ムード気にすんだよ、機嫌損ねて結局出来なかったんだぜ」
「そっちだって一昨日だか先一昨日だか、オレ様が楽しく了と風呂で一発キメようかと思ってたトコに邪魔してくれやがったじゃねえか」
「だったら先週――いや、今はそういう問答するんじゃねえ。クソが」
 苛々、と舌を打って、バクラは目を眇める。盗賊王は背凭れをぎちりと撓らせ、下目使いにカレンダーを見やった。
「で、何でカレンダーなんだよ」
「だから頭使えっつってんだろ中卒。要は日替わり制を導入しようつってんだよ」
「日替わりぃ?」
 途端に嫌そうな表情をして、盗賊王は眉をきつく寄せた。
 まあ聴け、とバクラはペンを振る。こちらもそうご機嫌な表情ではない、むしろ苦虫を噛み潰すどころかじっくりたっぷり咀嚼するのを二十回ほど繰り返し舌の上で吟味した後嚥下した後であるかのような渋い渋い顔だ。
「てめえもブッキングで痛い目見たのは一回や二回じゃねえだろ。ぶち当たって結局ヤれなかった割合を考えてみな。お互い良いことなんざ一つもねえ。そこで日替わりで宿主に手ぇ出せば、不要な涙は避けられるってこった」
「ゴミの分別じゃねえんだ。そううまくいくかねえ?」
「茶々入れんな、とりあえず全部聞きやがれ。バカにも分かるように説明してやるよ。
 ――仮に今日、オレ様のターンだとする」
 云いながら、バクラは二色ボールペンのブラックの方で、今日の日付に小さく印をつける。
「今日から明日の朝まで、てめえは宿主に手を出さねえことになる」
「……聞いただけで胸糞悪くなる話だぜ」
「我慢しろ。てめえからの接触は一切なしだ。まあ日常的なボディタッチくらいは許してやるが、キスだの乳揉むだのそういうのは禁止。その気じゃねえ時は一回休みってことで手を出さなくてもいい。てめえのターンでも宿主がしたくねえってゴネてミスっても繰り越しは無し。
 同じように、翌日はてめえのターンになる、が」
「が?」
「どっちのターンだろうと、宿主から触ってくる分には、許可する」
 ここでバクラがにやり、と頬を持ち上げて、意味ありげに笑った。
「同様に、宿主がしてえって明確に誘ってきた場合も、許可だ」
「ちょっと待て、じゃあオレ様のターンだってのに了がてめえとヤるっつったら、オレ様は結局我慢ってことになんのか」
「そうなるな。逆に言やあ、してえ時は接触ナシで宿主をその気にさせて、ターンを奪えばいいってことになる」
 うまくいけば毎日、宿主を食ってもいい。
 にたり、と表現して差支えない表情で、バクラはカレンダーにぐりぐりと黒い印をつける。
「ただ、相手はあの宿主サマだ。あの気分屋電波を思い通りに動かすのがどれだけ手間か、てめえだって知ってんだろ」
「了は可愛い面して自己中だからなァ、そりゃあようく理解してるぜ」
「ヤりてぇ時にうまく誘導した方が勝ちだ。ルールを破ったら罰ゲーム」
「罰は何だ?」
「一ヶ月禁欲」
「了が誘っても?」
「誘っても、だ。
 ――さて。普段は二人がかりで可愛がられてるところに、片方から一ヶ月手ェ出されなくなっちまったら、繊細な宿主サマはさぞかし悲しがだろうな?」
「成程な。その弱ったトコを、勝った方が優しく慰めてやりゃあ……寂しがりの了のことだ、三人がいいだの云ってるが、案外コロッと傾いちまうかもしれねえなあ」
「そういうことだ。どうなろうと恨みっこなし。
 そういうゲームと考えたら、どうだ?」
 自信がないなら逃げてもいい――と、バクラは目にあからさまな挑発の色を乗せて、云った。
 奪われるかもしれないだとか自分のターンにかすめ取られるかもしれないなどと、そんな不安など彼らの間にはない。なあなあで宙吊りの生活をしていても、惚れた女は自分の女である。それにうまくやれば、体よく了の心までも手に入れる手管となる――つまりこれは、了を賭けた打算と妥協を綯交ぜにしたゲーム。
 いかにも気乗りしない様子で背凭れを軋ませていた盗賊王が、不意に背中を反らせる。勢いよくテーブルまで戻って来、そして、にやり。
 この上なく邪悪な、よく似た二つの笑みが交わされ、
「いいぜ、乗った」
 盗賊王はバクラのペンを奪うと、翌日の日付に、赤いインクで○をつけた。
 楽しそうに、性悪そうに、バクラがその印を眺めて唇を曲げる。掛かったなこの間抜けが、とでもルビを振るのが正解と云えるようなそれは、極まりなく性格の悪い笑みだった。
 だがその笑みをすぐに隠し、そうと決まれば、と、再びペンを奪い返す。
 ぐりぐりと日付に色を付けて行きながら、交わされる会話はあくまでフェアを装いあう二人、であった。頭を寄せて、小さなカレンダーを真ん中に意見を交わし合う図が出来上がる。
 以下における彼らの会話の模様は、
「とりあえず一週間は様子見だ。交互でいいだろ」
「あー、でもアレにぶつかったらどうすんだ。出来なくなんぞ」
「先週終ったからしばらくは大丈夫だろ」
「把握してんのかよてめえ……」
「何年一緒に生活してると思ってんだ。てめえとは年季が違う」
「そういや了にはこのこと、勿論黙っておくんだよな?」
「当たり前だ。まああいつは抜けてっからバレることもねえよ」
「その抜けてるとこが可愛いんじゃねえか」
「可愛くねえとは云ってねえ」
「そういや了の奴、絶対月曜はしたがらねえな」
「てめえが土日バカみてえに腰振って疲れさせるからだろうが」
「人のこと云えねえだろ、あ、その金曜日オレ様に寄越せよ。了は金曜ノリがいい」
「その分土日寄越すならやってもいいぜ」
 ――と、このような。
 一見益体もない、されど彼らにとっては非常に重要な駆け引きは、了が機嫌よく帰宅する夕方にまで続いたのであった。