【同人再録】シチュエイション・アクト-5

Coffee and Cream puff

 

 バクラと獏良の関係は特殊で曖昧である。
 が、故に。
 しばしば超常現象的な事件が起こることを、バクラはよく知っていた。
 獏良がらみの珍事件に対して彼は概ね冷静である。故に此度も無表情に、なんてことはないという様子でもってソファに座り、苦いコーヒーを啜っている。
 腰掛けるのは適度に硬い座面のソファ。
 春先の暖かな温度に快適な風。獏良もいない静かな休日。
 穏やかである。
 ローテーブルの上で角砂糖を頬張る、手のひらサイズの獏良了も――まったりとした様子でバクラのことを見上げていた。

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 はじまりはいつだったか。
 道を歩くバクラの目の前に、ある日小さな毛玉が降ってきた。白くて丸くてふわふわの、女子供が好きそうな塊だった。
 無論そんなものに食いつくバクラではない、季節外れの蒲公英の綿毛かと思いつつ鬱陶しく避けたところ、それには顔があった。
 というか、小さな人間だった。
 綿毛と見まごう白い髪に、白い肌の――よく知った人間の顔、つまりは縮小して少々丸くした獏良、のようなものだった。
 アルマジロのようにきゅっと小さく丸まったそれは、手で払っても払ってもバクラの肩に纏わりついて離れなかった。気味が悪い――と顔をしかめる反面、ああこれがケセランパサランといかいうものかとも思った。
 そういったうんちくについて、バクラは日々獏良からみっちりと聞かされていた。妖怪だったかUMAの類だったか定かではないが、白粉を与えて飼育することが出来、持ち主に幸運をもたらす、そんなようなものだった。一方で動物性の毛玉や植物の冠毛が舞った姿だとも云われていて、なんだかよくわからないファンタジックな、それこそ獏良の好きそうな代物である。
 ただの毛玉ならいい。だが顔がついているのが不気味である。獏良の顔をしているのが気に掛かったものの、結局は見なかったことにした。暫くすると毛玉は消えていた。
 ――また別の日のこと。
 その日の夕飯担当であったバクラに向けて、獏良が甘えた声を出した。曰く、オムレツ食べたいふわふわのがいい、だそうだ。
 聞けば海外には卵の白身を使って膨らませたオムレツがあるそうで、食べてみたいと駄々をこねだしたのである。獏良を諦めさせる手間とメレンゲを用意する手間を天秤にかけた時、後者が勝るのは至極当然。じゃあボク先に洗濯物片づけてくるからお前はオムレツよろしくねと笑顔で洗面所へ向かう獏良の上機嫌なことといったらなかった。
 そのご機嫌が腹立たしく、バクラは怒りをメレンゲにぶつけることにした。泡だて器――ハンドミキサーがあるはずだがとんと見当たらないので手動である――で勢いよく白身をかき混ぜながらてめえ調子こいてんじゃねェぞこのもやし色白野郎がと罵声を浴びせつつ働いていたところ、
 ぽこん、と。
 あわ立ったメレンゲ、そのぴんとツノ立った泡の一部分から、小さな頭がひょっこり現れた。
 エクスクラメーションとクエスチョンを頭の右斜め上あたりに浮かべ、真顔で動きを止めたバクラをメレンゲの妖精(?)がじっと見上げてくる。
 白い髪に、白い肌の。
 見たことのある姿だった。ケセランパサランもどきのアレとそっくり、否、同じだ。
 無言にそいつを睨むしかないバクラを、ヒトならざるものはじいっと見上げていた。小さな小さな頭と手足、メレンゲの効果も相俟って泡風呂から顔をだしたかのようなそれの瞳は目に痛いほどの無垢。少し首を傾げ、ぽやんとした様子で――まさしくそれは、獏良にそっくりで。
『何やってんの……』
 背後から声をかけられ、振り向いた先には洗濯かごを抱えた呆れ顔の獏良がいた。無論、身長一七六センチのまっとうな姿で。
 メレンゲに怒りをぶつけているところを見られたことに関してはこの際どうでもいい。宿主コレ、とボウルに視線を戻すと、メレンゲの妖精は跡形もなく居なくなっていた。
 そして今。
 苦いコーヒーを好むバクラが珍しく砂糖を落とそうとシュガーポットを開けてみたら、その中で三度めの遭遇が起きた。
 白くてふわふわしたもの――小さな獏良としか表現できないそいつが、砂糖の代わりにきゅるんと丸まっていたというわけだった。
「……」
 無言で再び、バクラはコーヒーを啜る。
(多分こいつは錯覚だ)
 何であれまぼろしで、実際には存在しない。するわけがない。
 勿論話しかけてはいけないし、追い払うこともしてはいけない、存在を認めることになる。
 ただどうしても、目の端でちょろちょろと動くのを気に掛けないでいないわけにはいかなかった。何しろ三度目である、今後も同じようなことが起こらないように、これが何を原因にして起きた幻覚症状なのか見極めなければなるまい。故にバクラはそれを放置しながら、決して気を抜かないまま過ごしているのであった。
「……」
 シュガーポットから這い出てきたそれは、ご機嫌でテーブルの上に座っている。
 小さな獏良は身一つで、服も着ていない。身体のおうとつが無く人形のようにつるんとして、ふさふさの髪で暖を取っているようなイメージだ。まん丸い瞳は青色。バクラや獏良と同じ、少しだけ緑がかったきれいなびいどろの色をしている。シュガーポットの中身をひとつ隠し持っていたようで、自分の頭の半分くらいある砂糖の塊をはつかねずみのように齧っていた。細い両足を投げ出した自堕落な姿勢での飽食、口の端についたかすまで丁寧に舐めとるあたり、モデルと同じく甘いものがお好きらしい。
(さて、どうしたもんか)
 と、バクラは眉間に皺を寄せて考える。
 獏良の見た目をしているのだから無関係ということはないだろう。そしてコレは、獏良の前には姿を現さない。一回目は帰宅する前に消えたし、二回目も振り向いた時には居なくなっていた。
 ひょっとして、同時に見ることは出来ないものなのだろうか。
(或いはオレ様の脳みそが処理できてねえのか)
 どちらかが本物で、どちらかが幻覚だ。
 当然本物は生身の獏良だろう。逆だったら恐ろしい――一体今まで何と生活を共にしてきたというのだ。
 確かに獏良の世界は狭い。だが数少なくとも友人がいる。現実とのつながりがあるのだから、獏良が幻だなんてことはあるはずがない。
 溜め息まじりに、バクラは小さいそれを横目で見やった。
 小さい獏良はぴょこんと立ち上がり――まるで大福に手足をつけたかのようだった――バクラがテーブルに置いたコーヒーにてちてちと寄って行った。興味があるらしく、すんすんと鼻をうごめかせマグカップを覗き込む。丁度同じ位の体長なので、背伸びをしないと中が見られない。
 妙なことをされてはかなわない、と思いながらも、バクラはそれを眺めるにとどめていた。
 小さな獏良がカップの縁に手を掛け、よいしょ、としか表現できない動きで中身を伺う。丸い瞳で苦い色の水面を見て、そこで興味が無くなったのか、またテーブルに戻り砂糖を齧る。自由奔放、正しく獏良だ。バクラの思っていた通りの行動だった。
(宿主に云うべきか)
 別に話しても構わないだろう、と思う。
 隠している訳ではない。今日とてちょっとでかけてくるねと云って昼過ぎに出ていった、そのタイミングで小さいのが現れただけだ。
 こいつを見せればいくばくかの結果が得られる。獏良に見えなければ正真正銘幻覚だ。獏良にも見えれば、超常現象の類か新種の生き物ということにして――その後どうするかは、まだ分からないけれどまあそういうものということで。
(あとは、見せたら消えるとかな)
 鶴の恩返し、雪女。正体を見せてはいけない。確か禁室型というのだったか。ばれたり見咎められたりしたら姿を消すのが昔話や童話のお約束。それで姿を消してくれるなら万々歳だが――
『どちらかが本物で、どちらかが幻覚だ』
「――」
 一瞬、おかしなことを考えた。
 本物はよく知る獏良の方だ。小さい方が異物、そうに決まっている。いくら獏良が少々変わった性格でも、どう見ても人間だ。
 友人だっている。学校にだって行っている。
 聞いて、見て、知っている。
 だけれども。
 脳を通してしか世界を知覚出来ないのがヒトという生き物。こんな幻覚を見ている自分の脳みそを信じられるかと云われればさしものバクラも首を傾げざるを得ない。
(だからって、突飛すぎんだろ)
 共に過ごした獏良了。その生活。
 一緒に出掛けたりしない。一人の時に何をしているかを知らない。ちょっとでかけてくるねと云った声はよく覚えているが、ならばどこにいったのか、バクラには分からない。
 まるで大きなひとつの幻だ。
 全部嘘でまがいもの。脳の中での一人遊び。まやかしを知らず生きてきて、そして今気が付いたかのような――そんな気分だった。
『バクラ』
 呼ぶ声を知っているのに。同じ時間を過ごしているのに。
 宿主サマ。
 共に過ごす時間以外を知らない、から――
「……くっだらね」
 実在しているのか、なんて。
 そんなものは非現実的な現状に影響されただけの思いつきだ。春の風は微睡を誘うから、妙な気分になっただけのこと。刹那過った馬鹿馬鹿しい妄想を、バクラは吐き捨てることでなかったことにした。
 ふと見下ろした先にはテーブル、そこでは小さい獏良が自由にふるまっている。放置しておいた携帯に乗っかったりストラップにからまったりしてご満悦だ。
 以前、獏良も似たようなことをしていた。剥がしたベッドシーツにくるまってごろごろ転がって、何が楽しいのかきゃらきゃらと笑って。
 白いシーツに白い肌。髪まで白い為にまるで人ではないもののように見えたソレ。
 ――ああ、さっきの一瞬がまだ残って、
「ただいまー」
 と、玄関から聞こえた瞬間、バクラは思考するより先に身体を動かしていた。
 テーブルの上の小さい獏良を横からさらい、後ろ手に隠す。玄関の鍵をかけて置かなかったのは失敗だった。開錠の音が響けばもう少し冷静だったものを。
「売り切れだった残念……って、何してるの、突っ立ってさ」
 ぺたぺたと歩いてくる獏良は全くの平素だった。出かける前に見た姿と同じ、ボーダーのシャツにジーンズ。平べったい身体と白い髪と、見慣れ過ぎた程に見慣れた宿主サマだ。存在として厚みを持っている。
 そして先程掴んだ――初めてまともに触れた小さな獏良もまた、柔らかくて軽くて、そして、じんわりと暖かかった。
 二人の獏良は、しっかりと現実感を持っている。とても幻覚には思えない。
「バクラ?」
「……あ?」
 訝しげに呼ばれ、はっとしたバクラは不機嫌な声を上げた。
 とっさに隠してしまった手の中で、小さな獏良が暴れている。どうやら声が無い――もしくは人間には聞こえないのか――らしく、やかましく鳴かれないのは好都合だった。暴れついでに噛まれたか、小指に走った痛みには腹が立ったけれども。
「宿主、」
 何を云おうとしたか分からないまま、バクラは獏良を呼んだ。
 ん? と首を傾げ、獏良はバクラを見る。
 光の加減のせいで、妙に影が薄く見えた。気のせいだと思ってもおかしな妄想が晴れない。何故か喉が渇く。手のひらが熱い。
 禁室型。
 見るなというタブー。知るなという禁忌。
(教えたら消えるんじゃねえの)
 この手のひらの中の熱が。
 それとも――今目の前で笑っている、青と白で構成された一人の人間が。
「何か云いたいことでもあるの?」
 獏良は屈託なくバクラに近づいてくる。
 咄嗟に身体を正面に、背中を見せないようにバクラは動いた。獏良はちらりとこちらを見たけれど、それ以上気にせず、テーブルの上を見た。並んでいるのは携帯電話とマグカップ、そしてシュガーポット。
「珍しいね、バクラが砂糖使うなんて」
「あァ、まあ」
「甘党になってくれたなら嬉しいんだけどな」
 そしたら一緒に出掛けられるし。
 と、獏良は曖昧に笑った。
「は、一緒にお出掛けとかそんなタマかよ」
 口は勝手にいつも通りの皮肉を吐いて、そして獏良もまたいつも通りに意にも介さない横顔を見せる。そうだよねえ、などと呟く口振り――に、
「お前はそういう奴だよね」
 少しばかりの、寂しげな音程が乗った。
「そういう奴、って何だよ」
「そのまんまの意味」
 春うららの陽光は柔らかく、獏良を儚げに見せる。
 その意味を、意図を、分かりかねたなら良かった。
 痛む小指が教えたのは獏良の本音。

 ――ああ、分かってしまった。

 春が心を緩ませて、獏良は口を滑らせたのだ。
「同居人とのコミュニケーション、考えたりしないのかな」
 それが少し、つまんない。
 ふいと後ろを向いた、綺麗な唇が、あーあと云った。
「お前は何も云わないから。秘密主義って奴?」
 秘密。秘密は手の中にある。
 分かってしまった獏良の本音の塊。ちらりと隠した手の中を伺うと、白い塊は物言いたげな目をしてバクラを見上げていた。
 見比べて、
(ああ、なるほどな)
 と、思う。
 どっちが本物とか、どっちが消えるとか、そんな馬鹿馬鹿しい妄想が霧散してゆく。仕組みはもっと簡単だったのだ。
 これも一つの魔法か奇跡か。オカルトに傾向しがちな獏良だからこそ起こった現象か。いずれにせよ一挙解決の手口を見つけたバクラは緩やかに手を開き、手の中の小さなそれを解放する。
 それがぽてりと床に落ちたかどうかは分からない。
 温もりが残る手を、バクラは伸ばし――憂い顔の獏良の後ろ頭をぽこんと叩いた。
「いった! 何するんだよ!」
「うじうじしてんのが鬱陶しいっつんだよ。云いたいことがあんならハッキリ云え」
 寂しいなら寂しいですって一言云えっての。
 投げやりの吐き捨てに、獏良がぱちくり、と瞬きをした。
 そうなのだ。
 全部がぜんぶ、おかしなことは全て、発端はひとつ。
 生活を共にし、寝食さえも一緒の二人だが、お世辞にも仲良しではない。バクラは他人と何かを共有することを嫌い一匹狼を気取り、獏良は他人との距離の取り方がへたくそだ。つまりは完全なパッシブであり、しかしとてもさみしがり屋だった。
 いつだって、バクラから何か仕掛けられることを望んでいた。
 ありていに云えば、『かまって欲しい』のだ。
 その化身が小さな獏良である。物言わぬ小人は無垢に訴えかける視線でバクラに絡んだ。恐らくは獏良が寂しいと思った時に現れ、ちょこちょこと動き回るのだろう。
『小さいてめえが居た』
 と、話題のきっかけを投げていたとも云える。
 それらを全て無意識でやっていたのだろうから驚きだ。バクラはオカルトを否定しないが、このように目に見える形でこなされるとは思っていなかった。
 どちらかが本物で、どちらかが偽物で。
 なんてことはなかった。両方とも本物だった。
「……知ってたの」
 バクラの思考も知らず、寂しい云々を見抜かれた獏良は頬を膨らませて云った。
「まあな」
「だったら何で無視するんだよ。ボクが友達少ないの知ってるでしょ。お前が一番近くにいるのにつまんない奴だからこうなるんだよ」
「てめえのコミュ障をオレ様のせいにすんな。ったく、でかかろうがチビだろうが、めんどくせえのは変わんねえな」
「ちび?」
 不思議そうな獏良を放って、バクラは背後を見やる。
 小さな獏良はどこにもいなかった。ローテーブルに散らかった砂糖のかすだけが、ここにいたことを物語っている。
 向かい合うことが気まずくなった獏良は、乱暴な動きでソファに腰掛けた。もうお前ホント嫌な奴! と文句を垂れるが、バクラが多少の理解を示したことは喜ばしいとみて、耳が赤い。
 手のかかる宿主に、バクラは大きく溜息を吐いた。
 他人と何かを共有するのは嫌いだ。そんなことをしたって何もならない。例えるならば恋人同士のメールのように、今何してる? だの、別に何の用事もないんだけど、だのから始まるコミュニケーションは虫唾が走る。同居人だったとしても用が無ければ声をかけない。
 獏良のことなど、何も知らなくていい――と思っていた。
 どこに出かけたのか、誰と会っているのか、何をしているのか興味が無い。非現実的な状況に立っていたからとはいえ、実在を一瞬危ぶむほど何も知らないバクラである。
 されど宿主サマはそれが御不満でいらっしゃる。その不満が形になって現れ、手のひらサイズで無邪気にバクラを惑わせるなら――これもまた天秤。どちらが手間かを考えよう。
 顎に手を当てて思考していると、いきなり獏良が「あ!」と大声を出した。急なことにビクリとしたバクラが目をやると、背を向けていた獏良がこちらを向くところだった。
 表情は、笑み。
 効果音的には、にやあ、といったところか。
「うわきめえ。何だそのツラ」
「何とでも云いなよ。バクラも素直じゃないな」
 怒るかと思いきや、獏良は笑みを崩さずに身体ごと回れ右。背凭れに顎を載せ、上目使いにバクラを見る。
 その手には、バクラの携帯電話が握られていた。
「ボクのことはどうでもいいとか云いながら、この画面は何かなあ?」
 云って、獏良は印籠の如く携帯を突きつけてくる。
 斜めに差し込む陽光が液晶に反射して眩しい。迷惑顔で顔を逸らしたバクラがそれを奪い取り、画面を確認。
 そこに表示されていたものは――
「さっきの言葉は訂正するよ。バクラはただのツンデレってことで許してあげよう」
 開かれていたのは、手作りシュークリームのレシピサイトだった。
「……はァ?」
「はあ? じゃないよ白々しい。普段ほっといてる癖にちゃあんと気にしてくれてるんじゃないか。
 そうじゃなきゃこんなサイト、見てるわけないもんね」
 と、勝ち誇る獏良の声が少々遠い。
 そう、何と云うかつまり、小さくてもあれはちゃんと獏良だった。ストラップで遊んでいた時に気づくべきだったのだ。バクラはがくんと脱力し、天秤が強制的に傾けられたことを知る。
「タイミングばっちりだよ。実は今日は二十個限定のシュークリームを買いに行ってたんだ。でも売り切れててさ」
「……はいはい、作りゃあいいんだろ」
 目の前の満面笑顔ではなく、今は見えないちびこい獏良に向かって、バクラは呆れ顔で是の返事を投げてやった。
「どうせならすごいやつ作ってよ、クロカンブッシュとか!」
 何も知らない獏良は一転してご機嫌な表情で笑う。その笑顔は意外に――否、存外に、悪くない笑顔だった。
(……絆されてンのか、このオレ様が)
 溜め息は拭えない。頭を掻き、踵をかえしてもう一度嘆息。
 とりあえずハンドミキサーを探すことから始めよう。携帯を放り出し、バクラはのろのろとキッチンに向かった。