【同人再録】TRIPOD365!-5【R18】

2.

 

 

 全力で抗ってやろう、と、強く了は思っていた。
 またしてもこちらの意見を無視して勝手に決めて。三人でするなんて――否、それが嫌と云う訳ではない。結局身体で片付けようとしているのが見え見えなのが腹立たしいのだ。
 そりゃあ気持ちの良いことは大好きだけれど、納得いかない。何故なら了は「それでいいよ」と了承していないからである。返事も待たずに力ずくで行為に及んでごまかそうなんて、これでは何も変わらないじゃないか。
 だから突き飛ばして噛み付いて、抵抗してやる。
 ついでに足の間でも蹴り上げて――ああ、使い物にならなくなっちゃったら悲しいからそれはなしで。とにかく言いなりになんてなってやらない。
 そのつもりだった。
 ほんの数分前までは。
「っや、あ、やだ、やめてよぉっ……!」
 閉じ方を忘れた口の端から垂れているのは、最早言葉か涎かも分からない。
 二人がかりで愛されるということがどんなことなのか、了はちっとも考えていなかった。
 腕が四本、唇が、歯が二つ。熱源はもうあちこちに。
 絡め取られて、どろどろした沼に引きずり込まれていくような感覚だった。息継ぎしようと開いた口を塞いだのはどちらか一瞬判別できず、キスの癖で漸く分かる。口唇を覆い尽くして飲み込むようなキスをするのが盗賊王で、触れる前に尖らせた舌で上唇と下唇を割って侵入してくるのがバクラだ。
 突き飛ばそうとしていた手のうち、左は座椅子よろしく了を受け止める盗賊王の手に。右は正面から攻めてくるバクラの手の中に。片腿を跨がれているのでろくに動けもしない。
 完璧に自由を奪われて、貪られる。捕食の実感は蜜のように甘くて痺れる快感を与え続けた。
 抗えるわけがなかった。快楽に人一倍弱い了だから、ではない。どんな女でも、己を愛する二人の男に前後左右なく触れられたらたちまち蕩けてしまうだろう。
「ばくら、ぁっ」
 呼べば、舌が唇が指先が、必ず応じてくれる。
 溢れる幸福感が喉に詰まる。可愛がられていると実感する。
 ああ、今すぐ昇天してしまいそうだ。
「やだ、ねえっ」
 嫌だなんて欠片も思っていないのに、勝手に言葉は口をついた。
 意地が悪くいじめっ子、な二人が、そうやって嫌がると知っているから身体が勝手に嫌がるのか。それともまた頭の隅で、流されてはいけないと警鐘を鳴らしているのか。
「ヤダっつって、口だけじゃねえか。なァ宿主?」
 首筋に埋めた獏良の頭が上を向く。下から熱っぽい視線でねめつけられるのは嫌いではない。肉食獣に捕食される草食獣の気分に、ぞくぞくする。
「さっきから腰動いてんぜ」
「っちが、だって」
「あァ、弄られねえとさみしいってか?」
 すかさず盗賊王が手を伸ばす。先程までささやかな乳房を可愛がっていた手が、へこんだ腹を経由して了の腰へ。
「おい、前あけろよ」
 バクラの身体で遮られ、腰の辺りが見えないらしい。バクラはひとつ舌打ちをすると、了のジーンズの釦を片手でひょいひょいと外してやった。
 滑り込む掌は平素よりも熱い。それを熱いと感じないのは、了の体温が同じくらい高いからだ。
 脱がす間もなく隙間から滑り込んだ手が、重たいデニムも薄布も掻い潜って目的の場所へ到達する。
「っ、あう!」
 触れた指が乾いている。それだけ、その場所が濡れていたからだ。短く切った爪の先がくぷりと湿った音を立てたのを耳が拾い上げてしまって、了はぎゅっと目を瞑った。いっそ鼓膜も閉じてしまいたい。
 気配で、盗賊王がにんまりと笑うのを感じた。
「満更でもねえみてえだな」
「あ、やぁ、あ、」
「弄る必要ねえだろ、これなら」
「分かってねえな、宿主サマはたっぷり弄られるのがお好みなんだよ。突っ込むことしか考えてねえ猿が」
 愛撫の間に、前後でやり取りされる言葉がえらく遠い。まるで異国の言語に聞こえた。
 太く硬い指が入口で音を立てる度に、身体が跳ねるのを止められない。首筋から徐々に降りてくるバクラの唇が鎖骨にちくりとした痛みを与えて、それすら甘美だ。
 了、と呼ぶ声がとろんと響く。宿主、という声も同じように。
(どうしよう、溶けちゃう)
 力の入らなくなってきた手が、掴まれたまま視界の端でだらりと脱力しているのが見えた。ああ、抵抗なんてどうやったらできるだろう。
 腕を抑えられているのがじれったかった。さっさとその緊縛を外して、両手でめいいっぱい愛して欲しい。四つの腕で身体中を探って、触れていないところなんかないというくらいに手痕をつけてくれたらいいのに。
 そんな風にぼんやり考えていたのが、もしかしたら口に出ていたのかもしれない。不意に手首を掴む腕が緩み、了の両腕はぶらんとだらしなく肩から垂れさがった。
 拳を握る余裕もない。唇と同じように半開きになった手指は、触れられるごとに小さな震えを宿す。
「ぐらぐら、する……」
 呟いた譫言。応えるのはくふりと笑い声。
「やぁっと素直になったじゃねえか」
 嬉しそうな声はバクラのものだ。伸びあがって、ご褒美のキスをくれる。
 薄い舌のノックに応じて開いた口の中に、蛇のように滑り込む柔らかさ。バクラのキスはひどくねちこくて繊細だ。滑らかな歯列に挨拶し、上顎をくすぐられると堪らない。
 何年も何年も、このキスを受けてきた。唾液の味すら覚えている。
 常日頃から意地悪いバクラでも、キスだけは妙に暖かく感じて、それが了は嬉しかった。ひどい嘘を練り上げるのはこの舌だと知っていても、噛みついてやろうなんて思わない。
 薄く目を開くと、同じ色とぶつかった。ご満足で? と嫌味なくらい慇懃に問われて、塞がれたまま云う。
「んふ、ぅ、く」
 残念ながら言葉にはならない。それでもバクラには通じるらしく、目が細められた。
 不意に、頭の脇で気配がした。緩くゆるく入口を探る手が止まり、代わりにチチ、と、耳元で響く音。
「んぅ」
 反射的に、了は首をぐるりと曲げていた。
 到達地点には尖らせた盗賊王の唇がある。猫を呼ぶ舌慣らし。もう身体が覚えてしまった。この音がしたら彼にキスをするのだと、ここ数日ですっかり教えられてしまったのだ。
 むっとしたバクラが、何だそれいつ仕込みやがった、と文句を云っている。一転して不機嫌な声に滴る嫉妬の匂いが気持ちいい。
 ちゅ、ちゅ、と、音を立てて、厚めの唇に唇を寄せる。下唇を食むと盗賊王が鼻を鳴らして笑った。多分バクラに向けて、優越の笑みを浮かべたのだろう。
(バクラ、にも、したい……)
 きっとバクラはふてくされている。残念ながら、唇は一つしかない。されどどちらも贔屓したくない。
 了は盗賊王へのキスを止めないまま、力の入らない手をどうにか持ち上げた。伸ばした先にはつい先ほどまで交わしていたバクラの唇。薄いが柔らかいそこを、指の先で撫ぜる。
 宥めるような動きになってしまったけれど、片方だけというのは嫌だった。
 どちらかを選ばないから、どちらも愛しい。嫉妬もやきもちも嬉しくて堪らないけど、それは別腹。
 我儘だけど認めて欲しい。了はすりすりと唇を撫でながら、キスも止める気はなかった。
 流石は双子、その意志もきちんと伝わっている。バクラはふんと鼻を鳴らしたが、やおら了の指に噛みついた。
「ひゃ、ふ」
 痛くはない。あの薄い舌がねっとりと薬指に絡みつき、指の間の敏感な皮膚をくすぐるのが気持ち良い。思わず腰を震わせたなら潜り込んだままの盗賊王の指が陰核に擦れて、また堪らない。
 連鎖的に続く快感は、吐き気がするほど心地よかった。
 もし吐いてしまっても、何だかよくわからない甘くて官能的な体液が溢れるのだろうとそんなことを思った。或いは、あんまりにも気持ちが良くて溶けてしまった脳が液状化して出てきてしまうとか。
 グロテスクな想像すら自動的だ。もうどうにもならない。
「見たこともねえ面ンなってんなあ」
 楽しそうに盗賊王が云う。
 彼がそう云うならそうなのだろう。身体中弛緩して、されるがまま。何をされても堪らない。
 舐め終えた手を辿り肩口を噛むバクラが、突っ込む前からアヘ顔してやがる、と酷いことを云う。反論する元気はもうなかったけれど。
「突っ込むといえば、どうすんだ」
 云いながら、褐色の指がぐちぐちと中をかき混ぜる。上げた悲鳴はバクラがきっちり吸い取った。
「流石に二本は入んねえだろうな」
「いや、わかんねえぞ。すげえ開いてっし」
「もし入ったとしても、てめえの汚ねぇイチモツとオレ様のが接触するのは御免だ」
「ひでえなァ、兄弟」
「それもやめろ。オレ様の血縁はコイツだけだ」
「そういう意味じゃねえよ、あれだ、竿兄弟?」
「だまれ」
 どうやら彼らは、了に比べて随分と余裕があるらしい。ぼんやりとしたままの了を挟み、なおかつ手指を働かせることを止めないままでそんな議論をする。そのくらい元気があるということか。
 もうどっちでもいいから早くして、と、了は掠れた声で呟いた。しかし、あまりにも小さな声過ぎて二人には聞こえていない。
 はしたないほど濡れた下肢にまとわりつくジーンズも、重ねられた舌と唇の愛撫で湿ったシャツも脱がして欲しい。服越しではなく肌で直に体温を感じたいのに。
「いっそのこと了に決めてもらうか?」
 やおら、盗賊王がそんなことを云いだした。
「なあ了、オレ様のでけえのとアイツの貧相なのと、どっちがいいよ?」
「は。でけえだけでテクの欠片もねえもんぶら下げてる奴が何云ってんだ。宿主の穴はオレ様用に仕上がってんだよ」
 ほっておけば言い争いをしつつ、二人の男が了に迫る。
 どっちだなんて、決められる訳がない。性器の形や大きさで選り好みなんてしていないし、両方とも別の快感をくれるものだ。
 盗賊王に貫かれると、入口に微弱な電気が走ったような錯覚を受ける。いっぱいに広がって、狭い肉の道を無理やりこじ開けられる感じがたまらない。力任せの注挿で揺さぶられると、毎回死んでしまうのではないかと思う。
 バクラに貫かれると、一切の負荷を感じずに奥まで届くのが最高だ。一番欲しいところに欲しいものをくれる。中に点在するポイントを知り尽くして、かと思えばたまにわざと照準を外されたりするのも良い。恥ずかしいおねだりをすると、見合った快感を必ずくれる。
 両方好きだ。選べない。
 答えられずにふるふると首を振ると、二人は顔を見合わせた。
「……どうするよ」
 盗賊王が煮えない声を出す。バクラは了の頭のてっぺんからつま先までを眺め、暫し悩む素振りを見せ――そして、にや、と笑った。
「穴ならもう一つあるじゃねえか」
「ふぇ……?」
 理解できない了はふやけた仕草で首を傾ぐ。
 次の瞬間、ビクンと腰が跳ねあがった。ジーンズの上から尻の肉を強く持ち上げられたからだ。
 バクラは了の身体を引き上げ、やや乱暴にひっくり返した。今度は盗賊王の胸に頬を押し付けることになる。
 突き出す形になる尻を広げられる感触。指先はしとど濡れた入口ではなく、その奥――普段は決して触れない箇所をなぞる。
「尻の方は未開拓だからな。丁度いい」
「お。じゃあコッチはオレ様が頂いちまうぜ?」
「てめえのバカ太いモンじゃあ、宿主の尻が裂ける。それに」
「それに?」
「コイツの初めてはオレ様が全部頂くって決めてんだよ」
 てめえにはやらねえ。
 バクラはしゃあしゃあと云って笑ったようだ。盗賊王がこの糞餓鬼、と呟くのが了にも聞こえた。
「それでいいな、宿主?」
「ん……」
 正直、何がいいのかもよくわからない。ただ両方がいいという望みは叶えられそうなのでそれでいいやと頷いただけだ。
 こりゃあもう何云ってもイイっていうなァ。盗賊王が楽しげに、了の頬に唇を押し付ける。
 男の人はこういうのが好きなのかな。ふにゃふにゃで何も考えられないのに。顔だってきっとすごくみっともなくてぶさいくなのに――了は思うが、そんな思考もすぐに溶ける。
 一度離れたバクラが何かを持って戻って来、その頃には盗賊王はフローリングに仰向けになっていた。了の腰を片手で悠々と支え、ずるりと脱がした衣類を放り、既に性器と性器で照準を合わせている。
「入れちまうぞ」
「胸糞悪ィ」
 罵声が応の代わりである。避妊具を嫌う盗賊王は此度も生身の挿入だった。
 滑らかで太く、熱い切っ先が了の入口を潜る。指で導く必要もないほどに柔らかく濡れたそこは、了の心と同じくらいに開いていた。
「ッあ……!」
 ぐぬ、と太い箇所が、入口を更に広げる。この瞬間に走る痛みが心地好い。
 探るようにゆっくりと、などという温い作法は、盗賊王に期待するだけ無駄だ。彼は彼が悦いように、好き放題に了の身体を開いていく。痛みに戦く腰を無理やり掴んで、引き寄せる形で侵入してくる。
「あ、ぁあ、っバクラ、あ、おっきい、っ、や」
「やじゃねえよ、ちゃあんと食ってるじゃねえか」
 背中を弓なりに反らせて上げる悲鳴が、ただでさえ太いそれを更に硬くさせる。
 背後でバクラが舌打ちをした。盗賊王がおやおや、と眉を持ち上げる。
「後悔してんのか? やっぱ逆が良かったとかよ」
「いいや? 汚物を強制的に突っ込まれる宿主サマあんまり哀れでつい、な」
「悔し紛れなのが見え見えだぜ? ――っと、これで全部か」
 奥にぶつかる感触が響き、了がまたひとつ跳ねる。狭い狭い肉の道が、全て埋まってしまう満足感。いっそのことこのまますぐに突き上げて欲しい。
 だが盗賊王は動く代わりに、両手を軽く広げて、ん、と云った。こっちにこいという意思表示を、了の蕩けた脳はなんとか拾うことが出来た。跨る形で座っている体勢を倒して、広げられた両手の中へ。盗賊王の身体を敷布団にして寝そべる形だ。繋がったままなので、変な風に中が圧迫されてむずむずする。
「さて、と」
 了の背後でバクラが動いた。
 自然突き出す形になる尻に、ひやりとした温度。思わずうひゃあと声を上げる。
 冷たいものは粘度を保ち、すぐに了の体温を吸ってぬるくなった。尻の間に滴るそれがローションだとやっと気が付く。
 見なくても分かるくらいに覚えたバクラの指の感触が、熱く埋まった性器ではなく排泄の為の場所を軽く詰る。
「やっ…… ばく、ばくら? 何してるの……」
「さっきてめえもイイっつったじゃねえか。コッチの穴も使うんだよ」
 反論は一言も許されない。言葉と共に、バクラの指がぐっと内側にまで埋まった。
 全く未知の感覚だった。
 ゾク、と背中じゅうの毛穴が広がった気がする。ローションにまみれた指が一本、恐らく関節一つ分だけ中に埋まっている。
 そんなところに指を入れるバクラの気が知れない。世の中にはそこを使って気持ち良くなる人もいるらしいけれど、自分とは一生無縁だと思っていた了である。第一汚い。
 けれど、走った怖気の中に一筋だけ、正体不明の快感があった。こんな場所まで触れられている、こんな恥ずかしい恰好で、もう盗賊王のものを受け入れているのにこの上バクラまで、そんな期待が入り混じって、それは非常に危うい――紛れもない快感だった。
「やだ、やだよ、そんなのっ……」
 首はぶんぶんと否定の形に振る。逃げようと腰も引ける。
 動くと既に埋まった箇所が擦れて悶えて、結局逃げられなかった。おまけに、逃げるなというバクラの叱咤と共に尻をぱしんと叩かれる。
 じんとした痛みが染みる。おかしい。それすら快感の欠片が芽吹いている――
「やだ、やだおかしい、ボクのからだ、変……!」
「了がおかしくなってんのは、オレ様もアイツもようく知ってるぜ?」
 怯える了を宥めるのは盗賊王の役目だ。決して逃げられないように腰を背中を抱きしめ、至近距離で呼吸のやり取りをする。
 興奮すると赤味が増す紫色が湿って煙るのを目前で見つけて、了はこくんと唾を飲んだ。彼もまた、興奮している――否、中を埋めているのだから当たり前なのだけれど。
「バクラ、すごいやらしい顔してる……」
「了の後でもすげえ面してる奴がいるぜ」
「うるせえ」
 背後から、掠れたバクラの声が聞こえた。指をゆっくりと前後させてあらぬ場所を開拓している、そんな最中なのに。汚い場所なのに、バクラの声は明らかに濡れたソレだ。
 二人とも、余裕を見せながらどこか上ずっている。
「動かしたくてたまんねえんだが、開拓されてる了の面、とっくり眺めてるってのも悪くねえな」
 可愛いぜえ、と、盗賊王は云う。
 二人のことがわからない。あり得ない場所をこじ開けるバクラも、その様を見て楽しんでいる盗賊王も。
 同時に愛玩されている実感を深く得て、また背中がぞくぞくした。下肢の圧迫感は半端なものではなくなっている――恐らく指が増えたのだ。からん、と音がして何かがフローリングに転がる。了の視界の端で動きを止めたのは空になったローションのボトルだった。
 あの中身が全部、排泄孔を開く為に使われたのだ。
 不意に了は、初めてバクラに抱かれた時のことを思いだした。たしか中学生の頃だったと記憶している。その時もボトルが空になるくらい入念に、丹念に、バクラはこの身をほぐして侵入した。痛いという記憶は無くて、とにかく必死だったことばかり覚えている。自分もバクラもとにかく熱に浮かされて、溶けあうくらいぐちゃぐちゃになった。
 甘酸っぱい思い出が、不快感の上塗りをして掻き消してゆく。
 あの時と同じだと思ったら、何だか強張りが溶けてしまった。つくづく単純な身体だと了自身でも思うが、既に理性やまともな思考が濁流となって溶けてしまったのだから仕方ない。
 ぬるん、と指が引っこ抜かれた時、思わず物足りなさげな声が漏れた。背後でバクラがくつくつと笑う。
「コッチの穴も十分イケます、ってか? とんだスキモノだな、てめえは」
「う……」
「おい、まだかよ。そろそろ動きてえ」
「急かすな猿。今やる」
 急く盗賊王の声に憎まれ口で応じる、バクラの気配がごそりと動いた。
 突き出した尻の間にひた、と押し付けられたのは、薄いゴム越しの体温。慣れたバクラの温度だった。
 力抜けよとおざなりな声が降る。無理な相談だ、既に一本咥え込んで、中でじくじくと疼いているのに。
 ああ入ってしまう、多分ボクの身体はそんな場所ですらバクラを拒んだりしない――奇妙な確信があえかな声になって漏れる。まるでこれでは期待しているみたいだ。バクラか盗賊王か、どちらかが笑ったので、吐息は聴かれてしまっただろう。
 バクラの指が狭い穴を広げる。そしてついに、襞をめいいっぱい開き、先端が、ぬるりと――
「ひ、ッ!!」
 衝撃は、思っていたよりも重たかった。
 ずくんと響く痛み。高い悲鳴の心算で喉を開いたのに、あまりのことに長い音にもならない。
 なんと例えれば良いのか、身体中の毛を逆なでられているようだ。悪寒と異物感、排出の為の場所を遡る違和感。身体は排除したがって、バクラをきつく締め上げる。
「ッ、は」
 だが、バクラは笑っていた。妙に楽しそうに。
「ご機嫌じゃねえか、兄弟」
「ああ、たまんねえな―― 全力で拒んでるのを無理やり犯すってのは、最高、だ」
 切れ切れにバクラが云う。ここ最近で一番上機嫌な声だった。常に不機嫌で了の動向ばかり探っていたのに、その影もない。
 バクラが喜んでいる、ボクの身体を貫いて、喜んでる――
 それだけでたまらない気分になる。痛くて気持ちが悪いのに、のた打ち回りたいくらいに嬉しい。
 快感を受けて締まるのは排泄孔ではなく雌の口だ。ぎちぎちに咥え込んだそれを啜り上げるように、内側の道が震え上がる。漣を感じ取って盗賊王が呻き、すげえな、と褒められた。
「了は何されても気持ち良くなっちまうんだな」
「んぅ、っ、だって、あ、何か、わかんない、けど、すごい、」
「すごい?」
「すごい、気持ちいい――泣いちゃい、そう」
 痛くて気持ち悪くて気持ち良くてびりびりして、たまんない。
 事実泣きながら訴える。と、目の前の喉がごくんと大きく動きた。
 腰を支える手にぐっと力が籠る。すう、と盗賊王が息を吸ったのも感じられた。
「悪ィ」
 バクラにか、了にか、分からない軽い謝罪がぽつり。
 了は首を傾げ、ようやっと中ほどまで慣らしつつ侵入したバクラがてめえ、と呻いた。それが同時のこと。
「限界、だ」
 音を上げた盗賊王が、下から思い切り――突き上げた。
「あ……――ッ!」
 ごり、と、内臓を抉った箇所は快感のポイントだった。ようやっと背後からの侵入になれたところだった了は、二度目の衝撃に悲痛な声を上げた。繋がったバクラにも振動は伝わり、背中に被さる髪の感触。歯軋りの音もだ。
「ッてめえ、まだコッチは動かせねえ、ん、だって、」
「ンなこと云ったって、しょうがね、だろ……!」
 むしろここまで耐えたオレ様に感謝しろ、と盗賊王は悪態をついた。確かに了の後穴を開拓している間、彼にしては随分と理性的に「おあずけ」に耐えていた。普段は侵入したら即律動、射精するまで休まない男が、である。
「てめぇが動くと宿主がケガすんだよ、バカ野郎!」
 上下動に揺さぶられる了に更に被さり、バクラは云う。
 荒々しい言葉の中にも、自分への気遣いを見つけた了は嬉しくなった。普段は意地悪なくせに、こういうときだけずるい――嬉しい。
 盗賊王はもう我慢を止めた。なら、バクラにもそうして欲しい。
 激しく揺さぶられながら、了は叫ぶように云った。
「いいっ、いいよ、バクラもっ、あ、動いて、いいからっ!」
「ッ……!」
「好きにしてッ、いい、から、我慢とか、やだ、ボクのこと、いっぱい、して、ねえっ……!」
 二人でボクのこと、好きに可愛がって。
 言葉に出来たかは怪しい。何せ突き上げがすさまじくて、口を開けると舌を噛みそうなのだ。
 けれどバクラには伝わった。鋭い舌打ちがその証拠だ。
「知らねえぞ、後で痛い目見ても……ッ!」
 それから、ずるん、と、中ほどまで埋まったバクラの性器が腸を這いずる感触。
 気持ちが悪い。すごく、気持ちがいい。
 バクラと盗賊王の動きのテンポはなかなか合わない。恐らくお互い、故意にずらしているのだろう。どうにかして自分の波に相手を従わせようとしている。
 打ちこんで引く時、それに合わせて呼吸をする了には、息をつく暇が与えられない。吸った息の吐き出しどころが行方不明だ。。
 了、りょう、と重ねて呼ぶ盗賊王のキスで更に苦しくなり、バクラが髪を引いてそれを邪魔し、背中に噛みついてくるのでもうどうしたらいいのかわからない。
 浴びるほど愛されて、好き放題に犯される。
 こんな幸せがあっていいものか。繋がりあっていてさえ、彼らは了を取り合う。仲良くなんて――仲良くできると云ったのに。
 否、これも仲良くしていると云えるのかもしれない。
 三つの身体が了を真ん中にして繋がって、同じ快感を共有している。憎まれ口を叩きあいながらも彼らはお互いの振動にあおられて、見たこともないくらい呼吸を乱しているではないか。
 盗賊王はいつも浮かべているどこか余裕の笑みを崩して、顔を顰めて。バクラの表情は伺えないけれど、背中に落ちる熱い汗とたまに呼ぶ宿主、という声は平素とは全く違う。
 この状況を作り上げたのが己の身体であることに、了は歓喜する。愛しい男たちを気持ち良くして、気持ち良くされている事実が、爆発的な快感を生む。
「っあ、ああ、ッ、ひ、ぅあうっ!」
 漏れる声に秩序はない。結合の様と全く同じだった。
「情けねえ面してんじゃねえよ、居候野郎」
 硬い道を抉って、バクラが笑う。
「てめえこそ、さっきっからみっともねえ声でてんぜ?」
 蕩けた道を掻きまわして、盗賊王が笑う。
「どうだ、先にイった方が、例のゲームの勝ちってのは」
「上等、だ、てめえのが分が悪いぜ?」
「今にも漏らしそうな奴が、よく、云う、ッ」
 切れ切れに、ぜいぜいと息を乱して、彼らはまだそんなことを云っている。その声がとても楽しそうに弾んでいることに、きっと互いに気づいていない。
 二人が笑いあうところを、了は初めて見た。
(ああ――いいなあ、すごく)
 身体の快感、こころの快感。
 その両方が満たされて、別の意味で泣きそうだ。
(でも、また仲間外れ)
 勝負事を口にする彼らは、了を可愛がりながらも再び彼女を弾いている。
 させてなるものか。一度流されて、二度も流されて、三度目はそうはいかない。
 了はぎゅっと唇を噛み、己を貫く二つの欲望を思い切り締め上げてやった。
『いッ!?』
 バクラと盗賊王の声が見事に重なる。思わず腰が引けたのはバクラの方、喉を逸らせたのが盗賊王だった。
「ボクも、混ぜてよ」
 舌まで震えているのに、やせ我慢で耐える。
「そのゲーム、ボクも、混ぜて?」
 もともと何を賭けていたのか知らないけれど、そんなことはどうだっていい。
 ボクが勝ったら、三人で仲良く暮らすんだ。仲間外れも絶対なし。
 二人は顔を見合わせたようだ。少しだけ動きが緩くなる。
「――なら、勝った方の女になってくれンのか?」
「ボクが勝つから、っそんなこと決めなくて、いいの」
「は、随分と自信がおありで」
 その返事が、参加許可の代わりだった。
 これは意地でも負けられない。もう今にも弾けそうに感じているのに、膨れ上がった欲の塊を吐き出してしまいたいのに、それができなくなってしまった。
 盗賊王が鋭い角度で中を抉る。バクラが後ろから、ささやかに揺れる乳房を苛める。了は甘やかに二人を締め上げる。
 危なっかしい快楽で浸るフローリングの上で、三者は三様、唇を曲げて笑った。
 さて、ゲームの勝者は誰になるのか。

 ――どうしよう。
ものすごく楽しくなってきちゃった、よ?