【同人再録】シチュエイション・アクト-3
合わなかったフォーカス
素敵な写真を撮るね、と、人に云われた。
一度や二度ではない。獏良の作品を目にした友人知人、果てはプロのフォトグラファーにまで評価を得たことがある。
その度に獏良は曖昧に、
「ありがとう」
と、笑って見せた。
本当は感謝などしていない。的確に表現するならばどうでもいい。既に終わったことを惰性で続けているだけで、写真を撮ることは趣味ですらない。プロになるつもりも上手くなるつもりも、曰く『素敵』な写真を撮れているとも思っていなかった。
そう、全ては惰性だ。
大学生活もアルバイトも写真も、何もかもが。
高校生の頃の非日常は未だに獏良を縛りつけて止まない。あの日、心に宿した悪魔――バクラがいなくなってからというもの、獏良はあれほど好きだったTRPG、果てはゲームそのものへの興味を無くしてしまった。それどころか目にするだけで強烈な嫌悪感を覚えさえする。特にフィギュアやボードゲームは駄目だ。胸が悪くなり、涙腺のコントロール不全や、程度によっては嘔吐や錯乱まで起こす。つまりは深刻な精神疾患である。
初めてその症状を体験した時。
獏良は涙と鼻水だらけの顔を押さえ、学校のトイレの個室にへたり込んだ姿勢で悟った。子供の頃から目指していたゲームプランナーへの道が完全に閉ざされたことを。同時に、それらを失った自分にはやりたいことが一つもないという現実にも。
そうして今現在、獏良は相変わらず何もないまま適当な大学に入学し、適当に生活している。長かった髪を切りいつも通り楽しくなくともニコニコしていたら、友達も出来た。高校時代の友人とも交流を続けているし、なんてことのない人生だ。きっとこのまま流れるままに生きて生きて生きて、死ぬのだろう。感慨も無くそう思う。
そんな中で、何がきっかけだったか。
昔撮った一枚の写真が友人に渡り、それがさまざまな人の手に伝って評価され、大学のイベントで撮影係を任されるようになった。今では知人のつてで知り合ったフォトグラファーについて、アシスタントの真似事でアルバイトをしている。
はじまりの写真は無事に獏良の手に戻ってきたが、幾度見直してみても、それは作品とすら呼べない出来だった。
自宅のベランダを室内から撮ったもの。マンション六階からの夕暮れの風景が切り取られているだけで、全体的にピンボケしている。獏良からすれば素人の失敗作にしか見えない。どこにも合わないピントが全体をぼかして、まるで水面越しだ。空は夕日のオレンジと夜の群青が混ざり合った、パレットの上の絵の具のように紫。街並みは黒いシルエットとなり、室内の観葉植物の影は長く。開かれた掃き出し窓を真ん中に、そう、モデルがいたとしたら丁度この位置だろう――と思わせて、そこには誰も居ない。
それなのに、その写真はとても良いと皆が口をそろえて云うのだからおかしな話だった。
『素敵な写真を撮るね。なんだか切ない気持ちになる』
(何が素敵なんだろう)
『キミの作品には不思議な魅力があるね。誰も居ないのにまるでそこに――恋人でもいるかのようだ』
(冗談じゃない。恋なんかしていなかった)
誰も彼も勝手なことを云う。笑顔の裏でいつだって、獏良は顔を歪めていた。
(本当の被写体を知らない癖に)
そうだ、彼は誰にも見えない。
自分にももう、見えない。
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「バクラ、こっち向いてよ」
「あァ?」
カシャン。
振り向いた瞬間、軽い音と共に獏良の手の中の古い一眼レフのシャッターが切れた。
「何やってんだ、てめえは」
「見ての通り、記念撮影」
「説明になってねえよ。……カメラか」
ベランダからバクラが戻ってくる。半透明に空の色を透かし、曖昧な姿のバクラは肉体を持たない。アナログ一眼レフを掲げる獏良が、今の肉体の所有者だ。
「父さんのお古が出てきたからさ。まだフィルム残ってるみたいだし、折角だからお前を撮ってあげました」
「どうせ写らねえだろ。ただの下手糞な写真が残るだけだぜ」
「わかんないよ。これでも父さんからカメラの使い方は習ってるんだから。お前にピントも合わせたし、現像したら心霊写真くらいは撮れてるかもしれないじゃないか」
「やっぱり幽霊扱いしやがったな……」
「違うの? ボクに憑りついてるようなものでしょ」
手酷いことを云って笑うと、千年リングの錐が触れ合って澄んだ音を立てた。
「ベランダだけじゃつまんないな。お前、いろんなとこで浮いててみてよ。ポーズとってくれてもいいよ」
「付き合ってらんねえな」
「つまんない奴。ほらほら笑って。ピース!」
と、獏良は人差し指と中指を立てて振って見せる。うんざりした顔のバクラは鼻を鳴らして、ふいと向こうへ行ってしまった。
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それでも結局。
気の無い振りをして、結局願い事を最低限叶えていたことに彼は気づいていただろうか。
ソファの上に、キッチンに、気まぐれを演じて移動する。獏良もまた凄腕のカメラマンにでもなったつもりで、ふざけていいよいいよこっちむいて、などと云ってみたりした。久方ぶりに声を上げて笑ったら、頬が痛くて。そんな痛みがなんだかおかしくてまた笑い、バクラは呆れ顔で付き合っていた。
分かっていたのか。
分かっていたのだろう、きっと。
出来上がりかけたTRPGのフィールドがある部屋には絶対に行かなかったこと。口に出してなどいないけれど、別れが近いこと。それを獏良が感じ取っていたこと。
記念撮影なんて――そんなものをいきなり始めた理由も、全て。
永遠にこのままではいられない。近く訪れる別離を、バクラはバクラなりに惜しんでいたのかもしれない。今となっては昔の話、確かめる術なんてないけれど、そうであったらいいと獏良は思った。美化された思い出でもいい。何もない自分に残っていることなど、バクラの呪いしかないのだから。
時代遅れのアナログ一眼レフ、その手入れをしながら、また獏良は記憶のページを捲る。
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「だから云ったんだ」
紙封筒を手にとぼとぼと歩く帰り道で、バクラが云った。
フィルムを現像に出し、受け取った日。獏良は学校帰りに取りに行き、歩きながら中身を確認した。バクラの云う通り写真には誰も映っておらず、ボケた室内写真が数枚、手に入っただけだった。
「影も形もねえだろ。心霊写真にもならねえな」
「……」
意地悪はバクラの癖だ。別段気にするようなことでもない。そうと分かっていても獏良は無性に悲しかった。迷惑ばかりかける心の同居人、どこからどう見ても悪人の、共犯者。だのに写真に写らないことが悲しかった。
この肉体を介してしか現世に姿を残せない。
今はいいけれど、いつか。居なくなったらその姿を、鋭い瞳や皮肉な笑みや、腕を組んで向こうを見ている横顔も忘れてしまいそうな気がして嫌だった。こんなにも迷惑をかけた癖に全て終わったら残滓も残さずいなくなるなど卑怯だ。
姿をとどめておきたかった。
頭の中にじゃなく、形として。ここにいたという証を。
「……欲しかったんだ」
「あァ?」
「だからもう一回、やる」
顔を上げて宣言した時の、バクラの表情は見慣れないものだった。
呆れ、馬鹿にし、付き合っていられないという風でありながら、唇の端に苦笑が乗っていた。見たことの無い、微かに温度を感じる表情だった。
「またカメラマンごっこか?」
「室内だったから駄目だったのかも。もっと明るいところでやろう。あ、逆に暗い方が良いのかな、お前白いし」
「白いのはてめえの頭だろうが。ったく、本当訳わかんねえ奴だな」
「嫌なの?」
「別にィ。宿主サマのご命令の通りに」
軽く肩を竦めたバクラは、すいと先を行く。微かに振り返った口元は、やはりあの曖昧な苦笑だった。
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ボディにレンズを固定する。かちん、と耳に馴染んだ音がリビングに響く。
長い溜息をついて、獏良は首を反らし天井を見上げた。あの日と同じ紫の夕焼けが差し込んで、部屋全体を黄昏に染めている。
手の中には始まりの写真。テーブルには整備が終わったカメラと手入れ道具、そして小さなフォトアルバムが数冊とフィルム。中身は全てバクラを撮った写真だ。
モデルがいない、風景だけにしか見えないそれ。
何度試しても、バクラの姿を形に収めることは叶わなかった。山の如く積まれた写真が腹立たしくて、床にばらまいたままふて寝したこともある。その翌日目を覚ましたら写真は全て片付いていて、寝ている間にバクラが身体を奪い、整頓したのだと気が付いて――そして、大笑いしたものだ。
(お前がせっせと拾って整頓して、って姿、見たかったな)
はあ、と、長い溜息。
今もまだ、未来もきっと、忘れはしない。
バクラと共に過ごした短い時間を。非日常を。恐ろしいことも痛い目にも沢山あったけれど、嫌じゃなかった。いつだって誰かの物語を横で眺めていた自分が、初めて登場人物になれた気がした。そう思いたい。頭の片隅ではちゃんとわかっている――本当は、本当は、
(最後まで連れて行ってもらえなかったボクは、やっぱりのけ者だったんだ)
それでもなお、あの男を厭わしく思わないという現実こそが、バクラの呪いだった。
憎めればもっと楽に現実に復帰できただろう。今も幻想に片足を突っ込んで抜け出せない。あの戦いの当事者は皆、それぞれに区切りをつけているのに、自分だけができていない。胸と腕に刻まれた傷痕のように、一生消えない。それを煩わしいと思えず、甘い綿に似た思い出に縋って生きている。
雲を食べても腹は膨れない。だからいつか空腹で死ぬ。
(それでいい)
頬を照らす橙色の角度が変わり始めた。そろそろリアルな意味での食事をしないと。思いながらも、やはり面倒くさい。ソファに倒れ込む。
風圧で数枚のフィルムが飛ぶ。顔に乗ってきたそれを、獏良は煩わしく払いのけた。はさはさと床に落ちていく長細いそれ。――拾ってくれる人はもういない。
もう一度溜息を吐き、獏良は寝返りをうつ形でフィルムを拾った。怠惰を体現した緩慢さで一枚拾ってはテーブルに、二枚拾ってはテーブルに。皿屋敷さながらの恨めしさを誰にもぶつけられない。
「こんなの持ってたって、何にもなんないのにね」
未練がましさに幾度目かの吐息。
最後の一枚を手に取り、何となく黄昏に透かして見た。珍しくリバーサルフィルムだった。確か高校生のあの日々、間違えてフィルムを買ったのだ。値段が違うので首を傾げたが対して気にも留めずにそのまま使い、あとで驚いた覚えがある。
小窓を覗くように並ぶ、いくつもの風景。ネガフィルムではないのでフルカラーだ。白い室内。濃い青空。どこかの店の中。コンクリートの路地。見慣れた学校。ベッド――
「ベッド?」
胡乱だった目をぱちんと開いて、獏良は起き上がった。
落ちていく夕日は既に半分眠っていて、室内が暗い。テーブルの上のライトボックスのスイッチを入れ、獏良はフィルムを白熱灯の光に晒した。
並ぶ小窓の一つに激しい違和を感じる。自分のベッドだ。きちんと枕と毛布が整えられていて、当たり前だが誰も居ない。小さなフィルムでは分からないのでルーペを引っ張り出して見てみると、違和感の正体が分かった。
ピントが合っているのだ。枕辺りに。
「……!?」
がばっ、というオノマトペが似合う勢いで、獏良の手がアルバムを掴んだ。急いで捲り、該当する写真を探す。日付順に並べておかなかったことを今更後悔しても遅い。少々の時間を掛けて獏良はアルバムを総ざらいし、しかし、
「ない……」
ベッドの写真は見当たらなかった。
ただ現像したことだけは確かだと、空白のポケットが物語っていた。順序はバラバラでもリバーサルフィルムを現像したものは並べてアルバムに収めたとみて、前後の写真が残っている。一つだけ透明なポケットがあり、恐らくそこに、その写真があったのだ。
(そんな、でも、まさか)
妄想だ。
獏良は立ち上がり、ふらふらとリビングから出た。
ふと思いついた憶測。きっとそんなことはありえない。あるはずがない。都合のいい妄想だ。そうあって欲しいという願望だ。だから絶対にあるわけがない。
繰り返し言い聞かせても足は動いた。あの日から一度も開いていない閉ざされた部屋の前に、獏良は立つ。
TRPGをする為の部屋だ。
今はもう嫌悪の対象になったゲームと名のつくもの。それらを片付けることにさえ苦痛を感じた獏良は、馴染んだ遊び道具を全て、この部屋に詰め込んで隠した。窓も開けていない、灯りもつけたこともなくもう数年経過している。埃だらけでとんでもないことになっているはずだ。
そこに一つ、ゲームとは関係の無いものも一緒に隠した。
それを取りに行きたい。あるなら、そこしかない。
精神を削る部屋に入るには勇気と覚悟が必要だった。お化け屋敷など怖くないが、きっと城之内はこういう気分になるのだろう。否、それよりも獏良の方がもっとひどい。嘔吐と頭痛と涙腺大破、酷い時は呼吸困難まで起こすのだ。誰も助けてくれないのだから、自分で耐える他ない。
そこまでして知りたいのか、と、誰かが云った。
バクラの声に似た、自分の声だった。
「知りたい、よ」
もし思ったとおりだったら、ボクは。
くだらない妄想が真実だったら――その時は。
その時はどうすべきか、どうできるのか。分からないけれど、きっと何かが変わるだろう。
獏良は深く深呼吸をし、ドアノブを捻り、扉を開いた。
「っ……」
籠った空気が溢れ出てくる。埃臭く、人間らしさを感じさせない、ただ悪戯に積み重なった時間の匂いだ。
灯りがなく、カーテンも閉まっている所為で室内はよく見えない。幸いだった。背中に嫌な汗が溢れているが、嘔吐するほどではない。それでも輪郭を目にすれば理解してしまうフィギュアやダイスや、資料の数々に眩暈を起こす。床に散らばったカードを蹴散らし、獏良は目的の場所に向かった。一番奥のクローゼットを開く。
一着の黒いコートが底板の上に丸まっていた。
数年前、獏良が叩き込んで封印したそのままの形で、しわくちゃになったバクラのコート。
手が震えた。
恐る恐る手に取ると、布地はまるで今脱いだかのように微かに暖かかった。違う。空気の籠った場所においておいたから冷えていないだけだ。こんなじめついた温度はバクラのそれではない。心の部屋で感じた体温は自分と同じ心地よい三五度七分。感じるそれとは程遠い。
左右のポケットを探る。ない。
左胸の内側のポケットに指を差し込むと――かさり。
「あ……」
硬い紙を探り当てた。
探り当てて、しまった。
「これって……」
やっぱり、と、乾いた喉で呟く。
開け放した扉の向こうからの光と目の慣れで、暗闇が薄闇に変わっている。手の中の紙――光沢紙に現像された八九×一二七ミリの写真に何が映っているか、白熱灯がなくとも理解できた。
あのベッドの写真だった。
「ッ……!」
稲妻に身を引き裂かれたような気分だった。
獏良の脳裏で情景が浮かぶ。眠る自分。バクラに身体を渡し心の姿となっている時でも、獏良は眠たい時に自分のベッドへ横になった。勿論物体に触れられるはずもなく寝心地など皆無だったが、睡眠イコールこの場所と決まっていたから、特に何の違和感もなくそうしていた。
情景は続く。ある日のこと、夜を渡り悪巧みをして帰ってきたバクラが、眠る獏良を見下ろしている。サイドボードには一眼レフ。バクラはそれを手に取り、彼にだけは見えているであろう己が宿主をファインダー越しに見つめて――静かにシャッターを、切った。
ピントの合わせ方は適当だったのだろう。バクラに撮影の知識があったとは思えない。たまたま枕のあたりに合って、それで獏良の撮る写真との違いが生まれた。
何故そんなことをしたのか、知るすべはない。もしかしたら気まぐれだったのかもしれない。いつも自分がされていたことをやり返してみた、それだけかもしれない。
全ては憶測。真実は二つきり。
バクラが、他の写真と共に現像されたそれをアルバムから無断で抜き取り、愛用のコートの胸に隠したこと。
最期の戦いの時、バクラの左胸には獏良が居たこと。
誰も写っていない、彼にだけは見えていた、獏良の写真を。
「は、は」
乾いた笑いが漏れた。
「何、やってるんだよ、おまえ」
仰ぎ見る天井は昏く淀んでいる。まるで心の部屋のように。
自室より余程長い時間を過ごした其処と酷く似た場所でバクラのコートを膝に乗せ、獏良は初めて泣いた。
置いて行かれても捨てられても、傷つけられても泣かなかった獏良が、初めてバクラを思って泣いた。みっともない嗚咽と鼻水を垂らして、塩辛い涙の味を唇に感じながら。
「だったらどうして、ちゃんと連れてってくれなかったんだ」
偽物じゃない、写真じゃない、本当のボクを。
居なくなってからこんなもの見せるなんて、悪趣味すぎる。知らなければこのまま惰性で生きていけた。何も感じず、水面に漂うようが如くゆるやかな退廃の中に居られたのに。
(もうできない)
あいたい。触れたい。くるしい。
溢れてくる呟きが悲しい。
平静でいられるわけがない。どうして今まで生きて来られたのか分からない程に、せき止められていた感情はとめどなく、涙となって頬を伝った。
こんなことは辛すぎる。窒息寸前で細く長く息をするのが精いっぱいだ。
激しい嗚咽を漏らし、獏良は泣く。
恋でもない愛でもない、依存だけが生きた共犯関係だと思っていた。
幼い依存。
対象を失って初めて気づくなんて。
『まるでそこに――恋人でもいるかのようだ』
プロの目は真実を見抜いていた。
『意図的にやっているのか分からないけれど、一体何を映すつもりでフォーカスを合わせているんだい?』
ファインダー越しの視線は嘘をつかない。
今も昔も、いつだって合わないフォーカスはバクラを探していた。こうして一人生きている今も、あの日写らなかった彼がひょっとして近くにいるのではないか。見えないだけで、そこにいるのではないか。そんな祈りを込めてシャッターを切っていた。
『バクラ、こっち向いてよ』
そう云って撮ったはじまりの一枚――あの時から、きっと恋だった。
今更云えない。伝えられる訳がない。
「好きだったんだよ、バクラ」
薄暗闇。かつての遊び道具。その残骸。思い出。
一歩も前に進めていない、これからも進めない獏良の嘆きがか細く夜に響いて消える。
予め決められていた失恋の涙を、写真は無機質に弾くだけだった。