【♀】クローズ・イグジット【R18】

――さぞかし似合うだろう、と、常々思っていたのだけれど。
 全くそのとおりだったとバクラは口元を吊り上げる。くふ、と上ずった忍び笑いを上げてしまったのは、想像通り似合っていたその姿が、想像以上に己の情欲を刺激したからだ。
 了の白い肌に食い込む、闇色の緊縛。
 云うことを聞かぬ可愛くない宿主に、一寸したお仕置きである。何度云っても計画の邪魔をしようと小細工を繰り返すので、ここいらで一度きちんと躾けておかなければと心の部屋に監禁したのだ。
 それでもぴいぴいと煩く鳴くから、手足も塞いでやった。
 自由に動くのは首から上だけ。制服姿の了は、バクラの前に強制的に跪かされている。
「離して、よ、痛い、」
 切れ切れに吐き出す言葉に、まだ懇願の色は見えない。ギッと睨み付ける緑がかった青い瞳にはまだ意志の力が認められて、気丈なものだとバクラは鼻を鳴らす。
「当たり前だ、痛ェようにやってんだ」
 じゃなきゃ意味ねえだろ――云いながら、バクラは爪先でぐいと了の顎を持ち上げる。
 嫌がる動きで首を振ると、長く垂れた髪がはさはさと触れた。素足に掛かる冷たくて柔らかなその感触は、刺激としては些か物足りない。
 もっとえげつなくて、もっと強い快感を。
 この目の前の、芋虫のように無力に括られた身体を弄り倒すことが先決だ。
「てめえには少うしばかり、躾が必要みてえだからよ」
「人のこと、動物みたいに云わないでよ……」
「同じだろ。結局は――」
 顎を持ち上げていた足で、ぐい。肩の辺りを押して、了の身体を仰向けに転がす。
 その上に悠々としゃがみ込んで、バクラは闇色の縄と縄の間で苦しげに盛り上がった乳房の肉を掴みあげた。
「いッ……!」
「ナニされたって気持ち良くなっちまうんだから、よ」
 なァ宿主サマ。
 たっぷりの揶揄を含んで、言葉だけは丁寧に。まるで優しい紳士を気取り、バクラは笑む。
「括られて、縛られて、嬉しいかい?」
「な、に、云ってるか、わかんな……」
「縛られてるから仕方ねえ。そういう言い訳ができるからな。――でもよ」
 重たい制服の上からではつまらない。掴んで左右に暴いたブレザーの釦が、ぶつんと音を立てて飛んだのを目の端で確認。どうでもいいことだ。
 ただ、引き裂かれた途端に、了が、ひ、と喉の奥で悲鳴を上げたのは大変美味しかった。気丈にふるまう表情に一瞬、さっと刷毛ではいたような恐怖が広がったのがまた、好い。
 とっくりと表情を堪能しながら、バクラは続きの言葉を、白い耳へと囁いた。
「今日はこっから先、てめえで逃げ道を塞ぐことになるんだぜ」

「ひ、ぅア、あッ……!」
 ギ、ギ、と。
 動く度に、了の身体を締め上げる緊縛が擦れた音を立てる。
 動いているのはバクラではない。了の腰が、浅ましく揺れてバクラの腿に擦りつけられているのだ。
「どうした宿主サマ、ヤメテってな、もう云わねえのか」
 まるで悠々と安楽椅子に腰かけているかのように、対するバクラは涼しい顔をしていた。
 膝の上に引き上げ、片足を跨がせて座らせた了の足の間には、彼女にとって厄介極まりない闇色の緊縛が食い込んでいる。雌の入口に擦れるようにと故意にきつく締め上げたそこは、先程たっぷりとバクラが、緊縛の上から舌で可愛がって差し上げたばかりだ。
 それだけではない、左右に分断するように縛った乳房の先は赤く腫れるほど刺激を含んで、触れてもいないのに硬く芯を持っている。白い首筋には幾重もの噛み痕、よく見れば、静脈すら透けそうな細い腿にも赤い鬱血。
 あちこちを大層弄繰り回して、けれど決して、内部に触れることはない。気が狂いそうなじれったい快感の中で、堪えきれなくなった了は自らの意思で性器を膝へと擦りつけ始めた――のが、つい数分前のこと。
 雌の本能が凸型の雄を欲しがって暴れるように、上手く仕向けた結果だった。
「自分で擦りつけてちゃ世話ねえなァ」
「っや、だ、って、あ、くるし、もうッ」
 逃げ道はない。了が自分から腰を振り出した時点で、逃げ道、非常口のシャッターは半分口を閉じたようなものだ。
 バクラはただ待っているだけでいい。痛々しく縛り上げられたささやかな乳房を揺らし、必死に腰を押し付ける了を視姦しているだけでいい。
「バクラ、ぁ、やだ、もうこんなの……!」
「お、やっとヤダが出てきたじゃねえか。止めて欲しいか? このまンま現実世界のほうに放り出してやろうか?」
 そんなことをしたら了の気が狂う。分かっていて云ってやったのだが、案の定了は半泣きの表情で首を振って、甘えるように額を肩口に押し付けてきた。
「ちが、違う、そうじゃ、ア、ないの、コレ、っ……」
 これ、と云いながら、ぐいぐいと押し付ける腰でくちりと濡れた音。
 敏感になりすぎて膨らんだ陰核に押し当たる闇の縄は、下着の意味が無くなるくらいにきつく食い込ませてある。膝に性器を押し付けるということはその刺激がより一層ひどくなるというわけで、しかし、いくら動いたとて内側に潜り込むことはない。
 了が欲しいのは身体の外側を苛める闇色の緊縛ではなく、内側を貫く強直な熱。
 分からないふりをして軽く肩を竦めるバクラに、了はくう、と、猫のような鳴き声を上げた。
「お願い、だから、ねえ」
「ねえ、じゃ分かんねえな。人にものを頼む態度ってのがあんだろ」
 綺麗なお口で強請って見せろよ――真っ赤になった耳元に囁くと、柔らかな腰がビクンと跳ねた。
 その腰をいっそ非道なほどに優しく撫でる。女性特有の滑らかなくびれを辿って、捲り上がったスカート越しに、尻まで。
 あ、あ、と、期待しきった悲鳴が了の唇から、だらしない涎と共に垂れた。雌猫のように擦り上がる曲線に、なおもバクラの掌が這う。
「何が欲しい、宿主」
「あ、ぅ」
「云ってみな。じゃねえと本当に、現実に放り出しちまうぜ」
「いや、あ、欲し、バクラ、なか、中に、して」
 ようやっと口にしたおねだり――にしては随分と、舌と頭が足りていないが――は、半泣きを通り越して本気の嗚咽が混じっていた。
 軽く身体を離して顔を覗き込む。唇まで震えて、うまく言葉を作れないらしい。
 両手いやさ片手だけでも自由であったなら、己の指でどうにか内部を慰めていただろう。それくらいの限界を湛えた瞳は、目玉ごと涙になって零れそうで。
 歪んだ唇で欲しい、と乞う。
 惨めで、みっともなくて――とんでもなく性欲をそそる顔だった。
「――たまんねえな」
 我知らず、バクラは乾いていた唇を舐める。一瞬お仕置きも躾も忘れそうになった。
 そうはいかない。この細くて柔い身体にきっちりと教え込む必要がある。どちらが主で、どちらが従者なのか。支配権を持つのは誰なのか。もう二度と、逆らうなんてことを考え付かないように。
「そんなみっともねえ面でオネダリしちまうくらい、ココ埋めて欲しいって?」
 まだ中には触れない。食い込んだ緊縛の所為で盛り上がった陰部の肉を指の腹で擦って、バクラは問う。
「ほ、欲し、もう、やだぁ……!」
「なら、もうオレ様の邪魔はしねえって、約束してもらわねえとな」
「じゃ、ま、」
「オレ様が寄越せって云ったら、てめえは身体を寄こすんだ。余計なことは一切しねえ、抵抗もしねえ、オレ様の云うことだけを聞くって、約束だ」
 出来るだろう?
 囁くと、了は意味を噛み砕く時間だけ黙って――一度、躊躇うようにぶるりと震えた。
 此処まで来てまだ抗うか、と、バクラは内心舌を打ちかける。これ以上まだうだうだと鬱陶しいことを口にするなら、もう少し手酷い仕打ちが必要だ。まあそれはそれでえらく愉しそうではあるが、いい加減にバクラ自身、内部を味わいたいという欲求もある。
 目の前でくねり、うねる、自分好みの少女の緊縛肢体。昂らないわけがない。
 蕩けた雌の道を突き上げて、どっぷりと中を汚してやりたい。恐らく爛れたように柔らかく開いているであろう陰部を、摩擦熱で焼けるくらい苛めて可愛がって啼かせてやりたい。
 だから抗うな。ぎろりと、バクラは了を睨みつける。
 睨まれた了は小動物の悲鳴を上げて目をそらしたが――やがて、最後の我慢も堰を切ったのだろう、
「……やくそく、する、から」
 震える唇が、遂に肯定を零した。
「――ッ」
 瞬間、バクラの背中に、とんでもない恍惚と快さが駆け上がる。
 攻め落とす快感は何物にも代えがたい。吐き出した吐息に熱が絡み、了の髪を揺らした。
 情欲のまま、バクラは笑う。良く出来ましたと、最早愛玩物に成り代わった宿主サマ、の耳朶を齧って。
 指先の意思ひとつで、緊縛の一部が緩む。跡形もなく消えた性器まわりの締め付けに息を吐く余裕も与えず、バクラはそこへ、二本の指を叩き込んだ。
「ひィあっ!!」
 歓喜の悲鳴があがる。同時に、逃げ道が完全封鎖される音を聞いた。
 シャッターが床に叩き付けられ、非常口、の緑のランプが消える幻視を見る。辺りは暗闇に支配され、こちら側に残ったのは縛られた了と、その傍らで支配するバクラ、二人だけ。
「バクラ、バクラぁ」
 子供じみた泣き声を上げて、身体全体で了は刺激を強請る。媚びるような甘い唇。唾液まで砂糖の味がした。
 これでもう、自分だけのもの。
 抵抗しない。抗わない。邪魔もしない。
 便利で可愛い、オレ様の駒。愛玩物としてだったら、いくらでも可愛がってやろう。
 そう告げてやると、意味すらもう分からないのか、了はうん、と舌の足りない声で云って、ふやけた笑みを浮かべて見せた。
 それを見て、確信する。
 ――ああ、堕ちた。
 完全なる所有欲の快感は、射精と同じか、それ以上に強烈だった。