【♀】ヒキガネ 06-01 / LadyPanther and WhiteKitten.【R18】

誰かの視線を感じた気がして、了は胡乱な意識のままで窓を見た。
 ソファに寝そべっている所為で、景色はさかさまに見える。紗幕のない窓は夜の闇を映して黒々と街を染め、向かいの住居に灯りもない。勿論誰も居なかった。
「了、どこ見てんだ」
 上ずった揶揄を濃く連れた声と共に、ずくんと下腹部に甘い痛みが走る。堪らない快感に、了は長い髪を振り乱して悶えた。伸びあがってきた盗賊王が、唇に軽いキスを一つ落としてくる。
「こういう時は集中するのが礼儀だぜ? なあ兄弟」
「てめえの指がゴツ過ぎて痛ぇ――訳がねえか。さんざん咥え込んで緩くなってるくらいだからな」
 意地悪は左右から。了の細い身体を抱き込んだ男二人は、それぞれの中指を同時に了の雌の入口へと突き立てて笑っていた。たっぷりと塗ったローション以上に熱く濡れそぼったそこは、バクラの言葉のとおり、赤く潤んでまだ余裕がありそうだ。
「ゆる、いとか、すごい失礼、っ」
 くぷくぷと聞くに堪えない淫音を響かせる下肢を極力見ないようにして、了は呻く。そいつは失礼、とバクラは欲に煙る青い目を細めた。
「余所事考える余裕があるんなら、いい加減ナカにお邪魔させて頂けねえ?」
「だ、め。今日はいっぱい、たくさんしてもらうって約束、したんだから」
 焦っちゃ駄目、などと、まるで場末の娼婦の口手管のようだ。そんな言葉を自身が震えながら吐いていることに、未だにたまに、驚くことがある。
 二人の男を愛して、二人がかりで愛されて、とても幸せで。もっと幸せになりたいから同時に抱かれることまで覚えてしまった。バクラでも盗賊王でも、どちらか片方とたっぷりしっぽり乱れることも嫌いではないが、こうして三人で交わること――彼ら曰く、遊ぶ、こと――が、了はいっとう楽しかった。楽しくて愉しくて、これ以上の幸せなど世界中のどこを探しても見つからないと思う程に。
 挿入を許さない了に焦れたバクラが舌を鳴らすと、盗賊王がくつくつと喉で笑った。
「しょうがねえなあ、了のお気に入り、ブッ壊しちまったんだからよ」
「割ったのはてめえだろ。オレ様は関係ねえぞ」
「隠したのはてめえだよなあ。仕方ねえ、気合いれて可愛がってやろうぜ」
 そう、二人が悪いのだ。了のお気に入りのマグカップを割った二人が悪い。
 全く、普段ろくにキッチンに立たない癖に気まぐれを起こすからだ。後で片付けようと思って積んでいた食器の類を、冷蔵庫を漁る盗賊王が誤って肘で突いて崩した。ほとんどプラスチックや金属だったのだけれど、一個だけ了のファイヤーキングのマグカップが混じっていた。ミルクを混ぜた青色をした綺麗それはぱっくりと二つに分割され、ばれたら不機嫌間違いなしと踏んだバクラが隠した。咄嗟のことだったので隠し場所はフリーザーの中。夕食の準備をしている最中に、了の目に留まってしまった。
(ほんとはそんなに怒ってないけど)
 意地悪をしてみたくて、試しに云ってみた。お詫びは? と。
 そうしたらあれよという間にこういうことになって、つまりは快楽でお支払いと云うわけだ。快感に弱い了はあっさりと流され、結局、沢山してよと蕩けた唇で願った。
 そうして際限なく身体中を――それこそ触れていない場所などどこも無いと云う程にねちこい愛撫を受けて、今に至る。指先や髪の一房、綺麗なピンク色をした足の爪にまでキスを貰い、脳がひたひたの幸福感で満たされている。本当は指なんかよりももっと熱くて太いものを身体は望んでいたけれど、もう少しだけ焦らしたいような、今はそんな気分だった。
 上手く動かない手を伸ばして、二人の頭に触れる。了はたどたどしい手つきでもって、毛質の違う白い髪をゆっくりと撫ぜた。
 開きっぱなしの青い瞳に、天井でくるくると回るシーリングファンが映る。盗賊王の喫煙が原因で何かと臭くなりがちな室内の空気を、これでなんとかごまかしているのだ。ゆっくりと旋回する羽を見ていると、まるで自分たちのようだと思った。
 それぞれ好き放題の方向を向いているけれど、根っこはひとつ。おんなじように回っている――
 そんな風に考えたことが口に出ていたらしい。バクラと盗賊王はくるりと天井を見上げ、また了へと視線を戻した。
「オレ様達にしちゃあ、羽が一枚多いぜ。了はもう一人追加してえってか?」
「4Pをご希望とは恐れ入る。それともどっちかに不満でもあんのかよ」
 揶揄の種を拾うことが非常に上手な彼らは、それぞれの言葉で意地悪を云った。そんなつもりじゃないのに、と云おうとしても、奥に潜り込んだ指先までが了を苛む。ばらばらな動き――盗賊王の、男根を模して突くように動くそれと、内部を深く犯して指先で雌の道を弄うバクラの動きが、了の口から言い訳でなく甘い悲鳴を絞り出した。
「ひゃ、あ、あッ、や、それッ!」
 湿ったソファの座面で、思い切り背中を反らせる。もっと深く欲しいと望んで、前後に揺れる腰を止められない。
「四人目なんざいらねえって云うまで、たっぷり指で犯してやるよ」
 そう云って笑ったのがどちらのバクラだったか、もう了には分からなかった。
 とにかく幸せすぎて、気持ち良くて――ずっとずっとこうしていたいと、強く願った。
 彼らが自分に隠している何かの秘密だってどうでもよかった。彼らがちゃんと自分の元に帰ってきて、こうして可愛がってくれるならそれでいい。感じた視線のことも、もう忘れた。
 ただこのまま、微温湯のような幸せな停滞を。
 誰一人欠けることのない三人四脚の充足を、願わないではいられなかった。