フカンシヨウ/バク獏

つまりボクは、最初から最後まで不感症だったのだと思う。

そりゃあ多少はびくりとすることもある。
ぞくりとすることも、ある。
お前がやらかす有象無象に怯えたり、怒りを覚えたり、そういうことは沢山あった。
でも一度だってボクの心の底にある真ん中の部分は震えもしなくて、どこか冷めた目でそれを見ていた。
悪事を働くお前を一番近くで眺めていたのに、それを止めようとか思わなかったのは、ボクの心が何も感じていなかったからなんだろう。
同じように――お前といて楽しいこと、気持ちいいことも、やっぱりボクの心の芯にまでは届かなかった。

不感症。
不干渉。

皆が戦っているのを、お前が闘っているのを、絵空事のように遠くで見ていた。
全てが終わって、お前が居なくなっても悲しくないのがその証拠だ。
あんなに言葉を交わしたのに、
あんなに身体を交わしたのに、
あんなに傷つけられたのに、
あんなに、あんなに、あんなに。

ブラウン管の向こう側、透明な壁のあちらとこちら。
見下ろすみたいにただ眺めていた。隔てた向こう側を、どこまでも他人事の目で。

『まるで人形みたいに?』
「まるで人形みたいに」

どうせなら人形じゃなくて人魚ならよかったのにね。
皆がボクにナイフを持たせて、お前を殺せと云ってくれたら。
お前を思って泡になれたら。
その時はじめて、ボクは登場人物になれたんだろう。
ボクはそこにいただけだ。
物語の語り部にすら、なれない。
そして、除外された存在であることを、悲しいとも思わない。
自分自身も、他人事。
今も昔も、硝子玉の目で世界を見下ろしている。

つまりボクという人形は、最初から最後まで俯瞰仕様に出来ていたって――
ただそれだけのことなんだ。