砂上のひろいびと/古代盗獏

息をつまらせて走るごとに、砂の上の足跡に、何かがこぼれていった。
愛 だとか、
哀 だとか、
そういう 人間らしさみたいなものが。

ついてくる奴がいた。
そいつはオレ様のうしろをぺたぺたと覚束ない足取りで歩いてきた。
忙しいんだ、邪魔なんだ、
てめえなんかにかかずらってる暇はねえと、振り向きもしなかった。
だから、そいつがオレ様の後ろで何をしてるかなんて知らなかった。

ある日ふと気配を感じなくなって、
振り向いたら誰も居なかった。
白くて細くて危なっかしいあいつは、広い砂漠のどこにもいなかった。

その時何を叫びたかったのか

零してしまって、なくしてしまって、
長く伸びる足跡を眺めて、自分がどれだけのものを無くしたかを知った。
あいつがいない。
せいせいするはずなのに、こんなにもどこかが震える。
探しに行く? 今まで来た道を遡って――そんなことできるわけがない。
途方に暮れた、俺の背中で夜が落ちる。

「おはよう!」

目覚めたらあいつがいた。
どこへ行っていたのか、問いかけたオレ様にあいつは笑った。
いつもの笑顔で、白くて細くて危なっかしい姿で、
オレ様の胸に自分ごと、何かをおしつけてきた。

「忘れものだよ」

そこでようやく理解した。
歩みが遅い理由が、見失うくらい遅い理由が、
お前はオレ様が落としたもんを、一つ一つ拾いながら歩いていたのか。

「もう無くさないでね」

満面の笑みが胸元で咲く。
あったかいのは無くしたもんが戻ったからか、
それともこいつがあったかいからなのか。

取り落としたもんはもういらないもんで、あるとかえって邪魔だった。
だからこれからも無くすだろう、捨てるだろう、零すだろう。
そしてそのたんびに、こいつはそれを拾うんだろう。
オレ様が人間でいられるように。

――ああ 本当にてめえは 

「……莫迦な奴だよなあ」

そうだ、ばかなやつだ。
お前がいるから、オレ様はまだ弱くて脆い、人間なんかでいられちまうっていうのによ。