甘党悪魔/バク獏(桃娘ネタ)
「そういえばボクは、いつからこんなシュークリーム好きになったんだろう?」
心の部屋であいつを待ちながら、ある日のボクは首を傾げた。
天音と一緒に食べた記憶がない。ということは、子供の頃はそうでもなかったはずだ。
記憶を遡ってみたら、ある日からふと食べ始めている。
その時、首に掛かっていたのは千年リング。
「教えてやろうか、その理由」
ふうわり、後ろから抱きしめられて。
いつ戻ってきたのか、バクラお得意の優しい演技に、ボクは少し不愉快な気分になる。
対してバクラはご機嫌で、ボクの髪に鼻先をうずめてくつくつ笑っていた。
「ボクが分からないのに何でお前が知ってるんだ」
「宿主サマのことを宿主サマ以上によく分かってるのがオレ様さ」
ふざけた答えが帰って来る。嫌な予感がした。
抱擁から緊縛に変わった腕から逃げられない。黒いコートが巻き付いて、更に脱走を阻害する。お決まりの手口――これからボクはあいつに組み敷かれる。
背中から覆いかぶさる冷たい熱が、喉笑いの振動をボクに教えた。
「オレ様はこれでも結構な甘党なのさ」
「だから何だよ。離してよ」
「わかんねえかなァ? 単純なこったろ」
べろり。髪の隙間からうなじあたり、浮いた冷や汗を舐められた。
這う感触に身体はもう慣れ切っていた。だから気持ち悪いとも思えなくなっていた。
かわりにぞくんと背筋が震えて、滑る舌先に意識が集中してしまう。
バクラは大人しいボクの反応に満足したのか、また喉を鳴らして笑った。
「汗まで甘いぜ、宿主サマ」
この調子でよろしく、と。
飽食の黒い悪魔は、ご満悦な様子でボクの耳朶を甘く噛んだ。