因果の約束/バク獏
寂しくないの? と、彼が云った。
あいつの憎い敵で、ボクの友人でもある彼は、
とても触り辛いだろう胸の内側に、まっすぐな瞳で触れてきた。
寂しくないよ と、ボクは云った。
「だってまた会えるもの」
彼は不思議そうな顔をして首を傾げた。
そうだろう、きっとキミには分からない。
唯一無二のお互い、ひとりとひとりが重なったキミたち。
だからこそ絶対に分からないことだろう。
「ボクとあいつは一人なんだ」
一人と一人で二人じゃなく、
一人が分かれて二人になった。
運命と因果のはじまりの場所で、ボクらは一つの生命体だった。
学校で習った細胞分裂とそっくり同じことが起きて、ボクらは別々になった。
でももとが一人だもの、惹かれあうのは当然なんだ。
三千年前、ボクはあいつに恋をした。
今現在、ボクはあいつに依存した。
未来もきっと、同じことが起こるはずだ。
同じ名前と同じ姿で、同じように瞳を交わす。そうしてきっと、また破滅する。
でもそれは、永劫のお別れじゃないんだ。
ボクらはそういう風に出来ていて、別れる度に絶望と、次に出会う希望を宿す。
そうでもなければ、こんなにも平然としていられるはずがない。
ボクは不安を感じていない。ボクはちっとも寂しくない。
二つが一つになったんだ。
手を伸ばせば、いずれあいつの手に届く。
だから、ね。
「二度目の離れ離れも、きっと、すぐまた出会えるよ」