サロメ/バク獏【※】

ごとん。

と、音を立てて、お前の首が目の前に転がってきた。
その時ボクは、子供の頃持っていた人形の首が取れてしまった時のことを思い出した。切断面は平らでなめらかで、肉質も血液も感じさせない無機質な白。それがとても現実味のない彼岸の色を思わせて、ボクは驚きも悲しみも怯えもせず、ぼうっとそれを見ていたんだ。

「拾えよ」

こっちを向いたままのバクラ。
の、首から上の唇が、いつもの声でそう云った。三日月のかたちににんまり持ち上げて、視線で示してくる。
言われるがまま、ボクはバクラの首を拾い上げて、頭の高さまで持ち上げていた。白くて豊かな髪が、引っかかる肩もなくさらりと零れて揺れる。触れた頬は暖かい。まだ生きている。何故か分からないけれど。

「痛くないの」
「痛くねえな」

即答。鼻歌でも歌えそうなくらいに飄々と。
念のためもう一度ひっくりかえしてみたけれど、やっぱり断面は綺麗なもので、血の一滴もなくボクの手を汚すこともない。とくんとくん。残った短い頸にはちゃんと血流が巡っているのに、どうして溢れたりしないんだろう。
不思議に思いながらも、ボクは、思いついた別の疑問を口にしてみた。

「お前、身体はどこにいったんだ」

それが、いけなかった。
バクラは三日月の笑みを満月に変えて、けたたましい声で笑った。ひゃはひゃは、げらげら、けたけた、鼓膜を通って脳の中で幾重にも反響する、下品ともいえるくらいの笑い声だった。

「身体ならホラ、ココにあるぜぇ?」

途端、目の前がバクラの口の赤でいっぱいになって、

がぷん。

衝撃と共に、ボクは床に転がった。
視線の先にはボクの爪先。ボクの膝。ボクの腰、ボクの胸、ボクの首。
そして、バクラの顔があった。

「な、痛くねえだろ」

黒いコートを纏いながら、バクラは云う。
切り取り線をつけた首筋を襟で隠して、そうしてボクは、一人ぽつんと取り残された。
呆然とボクは思う。
ほんとうに、首だけになっても痛くもかゆくもないんだな、って。