【お題募集】砥石の要らない20××年/盗獏
お題:部屋とワイシャツと盗賊王@mahhy_jump
#短文書きたいのでなんかお題下さい
だから無理だっつってんだろ、と苦い顔をしたら、ふんすと鼻息だけ返された。
MサイズのYシャツは腕こそなんとか通ったが、ボタンを閉じるに至らない。贅肉のない痩せた上半身に、生き抜くために必要な分だけの筋肉が乗った盗賊王の身体は、現代に換算するとLもしくはLL程度のサイズに分類されるようだ。再三無理だと言っているのに、妙に意固地な獏良はとにかく彼に、童実野高校の制服を着せたい、らしい。
「何だってんだよ、面倒臭ぇことは御免だぜ」
厄介な予感にがりがりと後ろ頭を掻いたら、盛り上がった二の腕の筋肉が、遂にシャツの脇を破壊した。
盗賊王にのみ、気まずい沈黙がリビングに沈む。獏良は目をひとつ瞬きさせた後、ぷく、と笑う。
「何笑ってんだ」
「や、だって、破れた、マッチョで服破れた」
そのままふくくく、と笑い出したらもう止まらない。ツボに入ると止まらないのだ。白い耳を赤くして腹を抱える獏良に、盗賊王は先ほどと同じ、鼻息を返し上げたままの腕を下す。おあつらえ向きに、びり。反対側の肩も裂けた。
そうなるといよいよ止まらない笑いに、獏良は遂に床を転げて笑い出した。小馬鹿にされた気分だ。苛立ちのままに、まとわりつくシャツを脱ぎ捨てて一生やってろと部屋を出る。リビングを出るとすぐに目に入る玄関には、真新しい靴と鞄――意図が分かる程度には、盗賊王はこの平成の時を理解していた。
「馬鹿かあいつは」
片手で口を多い、盗賊王は吐き捨てる。
全く、一緒に学校なんぞ、誰が行くか。
人から奪うでなく与えられた初めての靴と鞄を見て悪い気がしないとは、この盗賊王も随分錆びついてしまったものだ。