【R18】【不壊×三志郎】7-無理矢理下ろされた撃鉄と、自意識で引いた銃爪/参

「ぅ、あッ」
 思わず口を突いて出た、声は快楽よりも違和感を多く含んでいた。
 たっぷりと唾液を絡め―――手袋を模した手は滑りが悪い。故に口淫の名残だけでは無く、一度三志郎の口に指を捩じ込んで、たっぷりと潤いを掬い取った中指が、窄まった箇所に一つ分の関節まで埋まっている。
 内向きには作られていない器官を逆行させる行為。片方の膝を縮ませ露わにした窪みは、当たり前だがフエの侵入を激しく拒んでいた。
「フエ、なんか、気持ち、悪…ッ」
「気持ち悪ィはねぇだろ。痛くねェように、優しくしてやってンだぜ」
 なし崩しに始まり有耶無耶の侭、あられもない格好にまでさせられた三志郎の訴えも、フエの皮肉な笑みを引き出すだけだ。
 言葉は嘘ではない。この侭滾る肉剣で貫いてしまいたいのを堪え、成る丈痛みを与えぬように、ゆるゆると動かしている指―――気が遠くなる程底抜けに温く、内側を宥めてやっているというのに。
「でも、ッ、」
 尚も不快を訴える、琥珀が困惑を宿して揺れる。
 そんな顔をするものじゃないと内心で舌を打った。耐えているのだ、限界なのだ。此れ以上煽られれば手加減など一切出来なくなる。木綿糸のような脆い理性がちりちりと音を立てて焦げ、快感でない理由で眉を顰めている表情にすら興奮した。
 湿度の高い溜息を吐いて、引き上げていた身体を下肢に向けてずらした。
「…フエ?」
「手の掛かる兄ィちゃんだな、本当によ」
 膝を押さえていた手を其の裏側へ滑らせて、更に強く引き上げる。腿から尻までもが連れられ、橙の灯りに晒される秘めた場所。
 先程よりも萎えてしまった性器と、しとど濡れた窄まりが指を咥え込んでいるのが見える。とんでもない眺めだと唇を舐め、其の舐めた舌でもって、柔らかい入口に触れた。
「な―――ぅわ、ッ!?」
 最初は何が触れたのかさえ解らなかったのだろう。三志郎の頓狂な悲鳴は遅れて空気を裂いた。
 そんな所をそんな風に、と、信じられないものを見る眼でフエを見下ろす。脚の爪先が黒い背中に触れる触れぬの境界で揺れ、指を含ませながらもたっぷりと唾液を絡める、淫猥な音が響いた。
 ぬち、と、意思を持った肉の感触と、硬く長い指の感触。其の二つでもって、狭い入口を開拓する。
「やめろ、って、なぁ、頼むから、フエ…っ!」
 懇願する声が心地良いと、思ってしまうあたりでもう重症だ。
 そして聞く耳は何処かに置いてきた。ついでに近場にある腿の付け根にも、訪問の痕を残しておく。日焼けを知らぬ内側の其処に赤い鬱血がひとつ、ふたつと刻まれた。性器も其の裏側の膨らみも入口も、全てを滴る程唾液で濡らし、挿入に備え愛撫を怠らない。
 此処まで優しくしてやっているというのに、止めろなどと。
 あらゆるものを棚に上げつつ思う、フエの舌がぐぬりと内側へ潜った。
「くぁ…!」
 耐えかねた悲鳴が漏れ、三志郎の上半身が逃げる。
 腰から先を捻り、無理な体勢で敷布を掴み、逃れようともがく姿。触れられるのが嫌なのではなく内側を舐められるのが嫌なのだと、言葉以上に態度が雄弁に語っていた。
 其れら全てを察しながらも、止める気は毛頭無い。要は「嫌」以上の快感を与えれば良いのだろう。内部を探りながら、逃げる三志郎を追う形で、指が一層深く潜る。痛みと違和感に強く押し戻す内圧と、苦しげな吐息。
「痛くしようって訳じゃねェんだよ」
 ましてや嫌がらせるつもりも無い。言い訳の如く卑怯な言葉だと、解っていたが口にした。
 途端、三志郎の眼が躊躇いがちに振り向いて。赤く熟れた唇から乱れた呼吸。反射で熱が猛る。
 頭のてっぺんから爪の先迄、余す事無く弄り回してやりたい。矢張り泣かせたい啼かせてしまいたいのだと、欲求が強く吹き出してくる。
 もう少し待てねェのか獣か俺は。己に叱咤し、傍らの柔らかい腿に、軟く歯を立てた。
「ッ、」
 ひくん、と喉を震わせ、悲鳴を飲み込む表情が堪らない。食み付いた隙間から舌を這わせ、ぬるぬると肌を味わいながら、息を吐けと囁いた。
 は、と、三志郎の薄い胸が上下し、深呼吸。
 大人しく言う事を聞くあたりが、素直すぎる所以だ。
 思ったとおりに、強張っていた筋肉が弛緩する。震えていた肩から力が抜け、僅かに緩むのは頑なな莟。
 思わず吊り上る唇は其の侭で、フエは深く抉るように、含ませた指を鉤状に曲げた。
「ひ、ぃあッ!!」
 ビクン!と、音でも出しそうな位に、三志郎の背が反る。
「ッそこ、だ、駄目…!」
 首を振る。短い髪がぱさぱさと触れる。
 琥珀色が快感よりも驚愕に揺れ、幼い手が敷布を強く掴んだ。
 何も考えずに、生温い愛撫を与えていた訳ではない。探りを入れながら性器の裏側、一等敏感な部分を狙っていた邪まな指先まで、小刻みに笑っていた。
「此処かい、兄ィちゃん」
 問いかけではない確信。
 答えを待たず、一点を突き舌先をも捩じ込んでゆく。
「ッ何、ぁ、変ッ…!」
 思ったとおり、悲鳴は口淫の時よりも更に動揺していた。
 捻った身体を苦しげに敷布に擦り付け、悶える三志郎の声が心地良い。まだ気持ち悪いかと、皮肉に言ってやろうと思ったが、そうするとこの舌の動きを止める事になる。
 言葉で詰るのはもう少し育ってからの方が良い。慣れた分羞恥心をたっぷりと煽れるようになってからの御楽しみだと要らぬ計画を立て、長い舌でこじ開けた隙間へ、唾液を流し込んでやる。
 雌の身体であれば望めたのであろう、内側からの潤いを擬似的に与える。萎えかけた性器が漲るに合わせ、粘ついた水分が布地をじわりと卑猥に染めた。
「ぅ、んッ、あっ、あぁ…ッ!」
 酷くぎこちない嬌声が途切れ途切れ乱れ、次第に思考が剥げて行く。
 内側で短く振動させる指先で、弱い箇所ばかりを刺激するフエの愛撫に対抗できる術を、三志郎は持ち合わせていない。性に疎い精神と身体では尚更、されるが侭。
 そろそろ良いだろうと見当を付け、フエの指がぬるりと抜けた。
「あ…」
 脆い内壁を擦られ、ぞくりと慄いた声が裏返る。直ぐにぴたりと押付ける、湿った怒張にも抗えない。
 不安定な体勢だった。片足は持ち上げられもう片足はフエが跨ぐ形。捻った上半身は横腹を敷布につけ、肘でどうにか肩と頭を支えている。
 仰向けの方が恐らく、楽だ。解っていた。
 解っていたが、此処まで堪え性が無かったか―――己に落胆、そして溜息。温い其れ。
 限界まで興奮した先端を、無垢へ押し当てる。
 丸い先が少しばかり、肉の入口を潜った。
「―――悪ィ、な」
 二度目の台詞だ。少しだけ本音。
 潤んだ瞳が此方を向いて、何がだと唇が動いた。嗚呼もう後で其のやらかいクチも塞いでやると、苛立ちが如く呟いて、
 そうして、早急に、
「―――ッ、ひ、ぁッ!!?」
 貫いた。
 躊躇いは無かった。そう思いたい。
「ぅ、ぐ、あ、痛、ぇッ…!」
 ぎちぎちと音がしそうな、狭い道。痛みに歯を食いしばる三志郎の横顔さえも堪らない。
 あれだけ濡らして慣らしておいたからこそ、この程度―――と言うにはきつ過ぎるが―――で済んでいるのだ。血が出ないだけまだマシだ。
 無理やり前向きな思考を拵えて、三志郎の汗で滑ってしまう掌、膝の裏を押さえ直す。
 どの道、此の侭の立ち往生しているのは不可能だった。余った手、さんざ卑猥の限りを尽くした左手で幼い性器を捕え扱きながら、ゆるりと腰を動かした。
「ッい、ひぅ…ッ!」
 狙ったのは、探し当てた一点のみ。
 痛い、と形になる前に、弾けるのは悲鳴と嬌声を混ぜ合わせた中途半端な音。
 強張りが別の意味で緊張を誘い、甘やかにフエを締め上げる。赤い目元が滲んで濡れて、舐め取ってやりたいきっとあれは甘いだろうと腑抜けた事を思った。
 徐々に早く、強引さを伴って、馴染んでいく柔らかい肉とかりそめの肉。
 交わっている。
 喉が渇いて、枯れそうだ。
「ぁあ、あ、フエ…っ!」
 貫く男の名を呼んで、三志郎の手が、何処かへ助けを求めて伸びた。
 同じ渇きを訴えているのだとは、フエは気付かない。そんな余裕はもう、何処にも無い。
 只反射で、膝裏を押さえつけた手を離していた。きつく敷布を掴み耐える前に、小さな手の甲を掌で包み込む。
 音を立てる下肢がうねる。咽るような嬌声。跳ね上がる腰と押さえつける腰とがぶつかり合う音。
 身を翻そうともがいたのは、三志郎からだった。包んだ手が訴えるので、動きは止めず少しばかり身体を浮かす。苦しい体勢から開放され、両手が、
「フエ、ぁ、フエ…っ」
 両手が、がくがくと揺れながら伸びて。
 抗う方法を互いに知らない。最早左手さえも放棄し、呼ばれる侭に倒す上体。溺者さながらの必死さで三志郎の両腕がフエの首に絡み、フエの手は腰と背中を抱いて、膝の上に引き上げた。
「ひぅ、ぁ、やァ…っ、あ!」
 深くなる結合に、仰け反る喉。黒い胸に押付ける頬が燃えるようだ。
 熱い熱い熱い熔ける。摩擦で蕩けて境界を無くす。髪を背中を掻く幼い指が与える快感。肉が擦れる淫靡な音と感触が、此れが都合の良い妄想ではない事を教えていた。
「っ、…う、あ、フ、エ、っ」
「ンな声、で、呼ぶんじゃねェよ」
 此れ以上煽ってくれるなよ、と、吐き捨てるフエの眉間に、深い皹。
 そう耐えられる自信が無い、のが、本音だ。幾度も繰り返される、切羽詰った声が一番効く。解っていてやっているならまだしもこの場合は天然だ。だからこそ堪らない。
 やべェと口の中で呟く。
「ッ、兄ィちゃん、そろそろ限界、なんじゃねェ、の?」
 律動に沿って声が途切れてしまうのは、情けないが仕方が無い。三志郎は応じる代わりに首を振り、痛いほど強く背中に爪を立ててきた。
 言葉の意味を理解出来ては居ないだろう。だが、腹の間で硬く反応した先端は震えるようで、頂きは目の前だ。埋め込んで抜き挿すフエも同じような状況だが、口に出してはやらない。
「っかんねぇ、よ、あ、何か…!」
 何か出る、と、切羽詰った高い声が訴えた。危ない、先に仕出かしてしまう所だった。
 そのような情けない事態だけは避けたい。歯を食い縛っているのさえ気付かれたくはないのだ。
 しかしどうやら其れも杞憂。
「で、る、ッあ、やだ、フエ……っ!!」
 ぶるっと腰が震え、大きく仰け反る、柔らかい幼躯。
「ぁ、あ…―――ッ!!」
「ッ……!」
 重なった腹、闇色に勢いよく吐き出された白濁に置いた刹那。
 三志郎の中でも、爆ぜた熱量が弾けた。
「…っは、ぁ、あッ」
 びくびく、と続けて跳ねた腰が、断続的に吐き出す幼い精。中では音にすればどくりと重く濃い其れが、内側を容赦なく叩く。射精の所為なのか刺激の所為なのか解らない侭、三志郎は暫く、小さく声を上げながら、フエにしがみついていた。
 短くなる呼吸を落ち着かせながら、白い手が惰性で腰を撫でる。汗で湿った其処は、酷く熱い。
「ッ、たく、如何しようもねェ…」
 誰に何に向けて、其れは呟かれたものか。追求はするだけ無駄だ。
 こみ上げる奇妙な感覚、戸惑いのようなもの、此れは満足感と呼ぶものなのか。最後の最後で嫌がらず縋り付いて来た感触は、満更ではなかった。
 見下ろすと、乱れ肩からずり落ちたジャケットも直す余裕無く息を吐いていて。
 何はともなく見つめていると、背中にあった手が脇腹を擦り抜けて、頬に触れた。
「…何だい、兄ィちゃん」
 振り払う気は無い、面倒臭いから。
 お得意の常套句で武装してから、赤い瞳で琥珀を伺う。
 まじまじと見上げて、するすると掌を滑らせて、三志郎は言った。
「冷、てぇ」
 ―――言葉に詰まる。
 熱い掌が、ヒトではない影の身を撫で。
 『冷たい』。此れだけ触れても交わっても、持ち合わせない体温。熱いと感じるのも錯覚だ。解っている、解っていたのに、何でこのタイミングで。
 越えたはずの境界を今一度、この距離で感じた気がして、思わず動きを止めた。
 ―――けれど、
「気持ち、い、ゃ」
 お前の、ぜんぶ。
 そうして、潤んだ琥珀色が微かに悪戯小僧の色を滲ませて、笑った。