【R18】【不壊×三志郎】6-無理矢理下ろされた撃鉄と、自意識で引いた銃爪/弐
寝ぼけた瞳は半分程しか開いておらず、状況を把握出来て居ないのが見て取れた。
「フエ、何してんだ…?」
口の中に言葉が微妙に残ってしまっているかのような、もごついた声。
唇はしとりと濡れていて、其の理由は今し方、己の長い舌で其処を舐め上げたからだ。他者を知らぬであろう初の接吻け―――初めてにしては、随分と卑猥な洗礼を与えてしまった。
構うものかと呟く。境界は背中の向こうだ。
開いた侭のジャケットを剥ぐのも面倒で、アンダーシャツの隙間を縫い、掌を忍ばせた。
「う」
きゅ、と、三志郎の眉が一瞬顰められる。個魔の掌は冷たい。
「冷てぇ、よ」
「だったら兄ィちゃんがあっためてくれるかい」
くつくつと笑い、フエが揶揄する。口元の皮肉は己に向けたものだ。
重なる箇所から伝わる感触はまだ柔らかく、発展途上の子供の身体。本来、こんな感情を―――ヒトの理で言えば感心できぬ下心を込めた手で、触れるべきものではない。
けれどもう、隠し通す事も押し込める事も無かった事にも出来ないのだ。
火をつけたのはあちらだ。自覚してでも転嫁せずに居られない卑怯な自分自身、理解しながらも止められない。自律できない感覚。
冷たいと訴える声。びくりと肌が慄くのが解って。
触れる事が愉しいと、反射で感じてしまった。
「ほんと、何してんの、お前…」
呟く三志郎の、瞳が数回瞬き。
冷たさが覚醒を促したのだろう、琥珀色が眠りの淵のまどろんだ色彩を無くし、正常な光を取り戻す。
耳朶から顎にかけて舌で辿る最中に、ばっちりと瞳が合った。
暫しの沈黙。
「―――な、何、何だ、何してんだお前!?」
思ったとおり、一瞬固まってから叫ばれた。
其れに対して個魔は喉で音を立て笑い、でけぇ声出すんじゃねェよお隣さんに迷惑だろうと、まるで他人事の如く囁き。ついでに耳朶を軽く噛んだ。
「触りてぇって言ったのは兄ィちゃんだろうがよ。お望みどおり、触らせてやってんだぜ」
「ぅわッ噛むな!―――た、確かに言ったけど、でも何か違うだろ!」
かし、と歯を立てたフエの額を押して、項まで真っ赤にした三志郎が声を殺して訴える。
押される侭に顔を上げた、視線が正面から再びぶつかった。困惑と羞恥と未知が織り交ざった絶妙な琥珀が紅を見つめ、紅はすうと細まり、けれど、逸らされる事は無かった。
其の侭、にぃ、としか表現しようのないいやらしさで、笑みの形に変わる。
「違わねェよ。解ってて誘ったんじゃねぇのか?」
「何もしてねぇよ!ていうかこういうのって好き合ってる相手同士でやるもんなんだろ!?つうかその前に俺男だし!!」
「んなこたぁとっくの昔に知ってンよ」
ちゃんとついてるもんなァ?
慌てふためく三志郎を面白そうに眺め、フエの手がやおら、服の上から足の間に滑り込んだ。
当たり前だが、ビク、と三志郎の身体中が跳ねる。言葉にならない悲鳴を上げて、丸い瞳でフエを見上げた。
「や、ちょ、フエ…っ」
まさかそんな場所に触れられるとは思わなかったのだろう。口をぱくぱくさせながら、真っ赤な頬を更に赤くする。
予想通りの反応に、しかし、当たり前かと思い直した。この歳で他人の手を知っている方が問題なのだ。そしてこれから、其の「問題」を起こすのだ。自分が。
少しだけ、抵抗のようなものが虚穴に響いた。
本当に良いのかと、問い掛け。
答えは放棄した―――今更、だ。
赤い顔でうろたえる三志郎を見ていると、思考も何もかもどうでも良くなった。困らせたい泣かせたい啼かせたい。ああこりゃあもうどっかぶっ壊れちまってンな。
壊れずの名を持つ俺が壊れちゃあ世話ねェ、笑い話だと鼻で自嘲しながら、掌に収まってしまいそうな其処を、軟く揉んだ。
「っひゃ!?」
何時ぞや聞いた、裏返った悲鳴よりも高揚させる。高い声を上げて三志郎が仰け反った。
「ゃ、待っ… ぁ、あッ」
ビクビクと腰を震わせながらの、戸惑いの色濃い声での制止。
そんなものは煽りこそすれ、抑制になりはしない。布越しでもそうと解る程深く握り込み、幼い性器と其の向こうの膨らみを掌で弄び、フエはくくくと笑った。
「ちゃあんと反応してるじゃねぇか、兄ィちゃん」
「だ、駄目だって、何か、だって、お前…ッ」
閉じようとする膝を膝で割り、逃走を阻止。唇は最後の抵抗を繰り返して何か言おうとするが、少しばかり左手に力を込めてやれば、其れ所では無くなった。
ぎゅうっと瞑った瞳の目元が赤い。縋るのか引き剥がすのか、どちらを選ぶのか決めかねた両手が、フエの背中、首の後ろ辺りをきつく掴む。
「―――質問には答えてやンよ」
どうせなら縋って頂きたい。口には出さず思いつつ、耳のすぐ近くでフエは囁いた。
「好き合ってる連中がするもんだ、っての、ありゃあ間違っちゃいねぇだろ」
「へ……」
えらく間抜けな音が、三志郎の鼻から抜けた。
きつく閉じていた瞳を開ける気配。だが、この距離では髪位しか見えないだろう。掌の動きを少しばかり緩めてやると、何で、と頼りない言葉が掠れて消えた。
対する形でおいおい、と、苦笑を浮かべるフエだ。
「最初に『好きだ』っつってきたのは、兄ィちゃんだろうがよ」
―――あの日、茹だるような暑い熱い昼下がりに。
何の臆面もなく言い放った言霊を忘れた心算かと、含めて言う。実際、あれがどういった意図で伝えられたものなのかを、明確に聞いたわけではないけれど。
重い言霊、致命傷。
好意は紛れも無く真実。ならばあの言葉は最大の告白だったのだ。
「忘れたのかい」
「忘れてない、けど…でも、じゃあ」
フエも俺のこと、好きなのか?
連なる筈だった言葉を、舌先で奪い取った。
「ッ、ん、んぅ!?」
二度目だが実質的には一回目―――初めての接吻けは半ば眠っていた最中のものだったし―――で、先を吸い取って飲み込ませる。
其処から先は、言わぬが華だ。言わぬは言うに勝る。言わぬ言葉は言う百倍。何でも良いが、口には出さない。
そんなものは、触れた箇所から勝手に察せれば良い。子供には解らぬやもしれぬ、しかし譲歩する気は、フエには無い。
裂けたような口唇で、幼い口唇を丸ごと覆った。言葉の形の侭開いていた其処へ、遠慮なく舌先を捩じ込んでやる。白い歯列と赤い口腔へ、尖らせた先で丹念にご挨拶してやると、襟を掴む五指に力が篭った。
「ン、ぅ、んん…ッ」
重なる柔らかい肉の隙間から漏れる、味があるなら恐らく甘いであろう音色。
緩めていた下肢への愛撫を再開。一段と激しく腰が跳ね上がり、舌まで竦んだ。
「んく、う、んー…ッ!」
愛撫に不慣れな性器が、たどたどしく持ち上がるのが解る。
此の侭では衣類が惨憺たる結果になってしまう。仕方ねェな面倒くせぇと自分勝手な独り言を内側で呟いてから、フエは手早く、三志郎の下肢から布を剥いだ。
唇の深い接合の所為で、三志郎に其の事に反応する余裕は無い。片足を抜かれ露わにされた性器に、手袋越しの手指がぬるりと絡みつき―――しかし抗う術も無い。
其の間にも、縮まった舌をフエの長い先端が抉り、強引に絡めて引き出して行く。対照的に短い舌は滑らかで、絡まる唾液の所為で一層滑り良くぬめりながら、甘い悲鳴を誘い出した。
眉が苦しげに寄ったところで、漸くの開放だ。
「っ、ふ、ぁ、」
離れゆく唇の間で、溢れた熱い吐息と唾液が混じる。つうと垂れた軌跡を追って、フエの舌が口元から顎へ首へと降りていった。
「ッ、くすぐってぇ…」
思考能力が、瞳の奥へ沈んでゆく。いい塩梅だ。
ヒトに似せた五指で扱き細い首筋を唇で食みながら、ゆるゆると素肌を探った。
「気持ち良いかい、兄ィちゃん」
「っ、わかん、ねぇ……ッあ、フエ…っ!」
切なく吐き出された吐息が、天井に辿り着く前に、呼吸で掻き消される。
思考できないのは此方も同じだ。頭がおかしくなるんじゃないかと思う程、堪らない表情で名を呼ばれて。縋る指先が震えを伝えて。
嗚呼触れたかったのはどちらだと、一瞬思って、止めた。
負けの確定した自問自答等に費やす余裕は無い。其れよりも目の前の幼躯を好き勝手に可愛がるのが先だ。
完全に勃ち上がった、雄を主張するには些か頼りない性器の裏側を指の腹で辿る。ビクンと腰が跳ね上がり、喉が反った。
良い反応に唇が釣りあがる。さんざ舐った首筋に別れを告げて、たくし上げたアンダーシャツの向こうの、日に焼けていない胸へと舌の矛先を変えた。
「ぅ、あ」
小さく上がる悲鳴―――否、嬌声だ。
は、は、と短い呼吸を繰り返す腹を頬で撫で、フエの舌が臍から鎖骨近くにかけて追い上げる。冷たさに快感に、或いは両方に反応した乳首が硬く形を変えていたので、
「っひ、ゃあッ!」
挨拶しておいた。
痛みを与えない程度に歯を立て、小さな窪みを舌の先で小刻みに刺激する動き。手の中の性器が漲る感触。此処が好きかと囁くと首を振るので―――問いの意味も理解していないだろうが兎に角首を振るので―――此れは今後覚えさせてやろうといらぬ事を考えた。
「フ、エ、あ、何か、変ッ…!」
ぐしゃぐしゃと髪を掻き混ぜる両手と、途切れ途切れになる声が必死に何かを訴える。
精通を知る歳ではないだろう。しかし最近の子供は随分と早熟だというし…結局はまあ良い此の侭進めてしまえと持ち前のものぐさっぷりを発揮。
弄る為の動きから、射精を促す行為へ変化を加えてゆく。再び舌で臍を経由し、恥骨のラインを辿り、汗と先走りで温く勃起した性器を、口内へ。
躊躇いはなかったあたり、やはり壊れている。ぎょっとした三志郎が肘を使って上半身を起こすと、性器を咥え込もうとするフエと眼が合った。
「ば、ばかお前、汚ぇ…!」
「そうかい」
「そうかいって、違うだろ!そんなとこ、な、舐め」
其の先を口に出せず、またしても金魚の如くの口。平然としたフエは立ち上がった性器に手指を沿え、側面をれろりと長い舌で舐め上げて、赤い瞳で上目に三志郎を見やった。
「生憎、俺ァ兄ィちゃんと違って妖なんでね。人間の常識ってのは範疇外なんだ」
其処ンとこ宜しく。とふざけた口調で言い、見せ付けるようにもう一舐め。駆け上がる快感―――明確な快感に、ひ、と、三志郎が喘いだ。
感度は上々。容易に咥え込んで、啜り上げるように愛撫する。
「ぅあ、ぁ、ああッ!」
膝までが慄き、起こしていた半身がくの字に曲がる。
フエの頭を抱え込む形で、三志郎の身体ががくがくと揺れた。灯りに照らされた影が、きちんと少年の形でもって同じように動く。どうしても内側に向く膝を、閉じぬようにこじ開けるフエの肩。
じたばたともがく内に、其の肩に両足は担ぎ上げられてしまう。バランスを崩し、折角起こした背はまたしても蒲団へと沈み―――追う形で乗り上げたフエが、更に強く性器を扱き上げた。
ぢゅう、と音がして、きつく吸い上げられる。鋭い悲鳴を上げて、三志郎が後頭部で敷布を寄せる。
「っひ、あ、ゃ、ッあ、ぁッ、あッ!」
癖のある髪を両手で掻き混ぜ、忙しなく上下するのは呼吸を不定期にした心肺。
ちらりと視線を遣ると、甘い汗を散らしながら三志郎は目を閉じて乱れて。得体の知れない、全く未知の感覚に振り回されている表情は半ば苦しげで。しかし止めてやる気は欠片も浮かばない。
寧ろ誘ってンのかそうだろうそうに決まっている。餓鬼の癖に悦い顔しやがって天然か。などと勝手極まる暴言を吐きそうになるのは、激しく煽られている自己を隠す為だ。
虚穴を駆け巡る、どろどろとした塊。腰の辺りに重たく渦を巻く。
出口を探して求めている其れを在りの侭具現化させる―――ヒトを模るが故に、其れは三志郎と同じく熱く漲る性器へと姿を変えた。肌の色では無い影の身から、いっそグロテスクとも言える肉感の性棒が現れ、開放を主張していた。
「…ッ」
ああ苦しい。熱を持たない身体が熱くて堪らない。
唾液の糸の残滓を残して、幼い性器を開放。三志郎は生理的に潤んだ視線を、縋るようにフエに向けた。絶頂には至らぬもどかしさを、無自覚の侭瞳だけで訴える。
「悪ィな」
短く詫びて、唇の端に無理矢理拵えた皮肉の笑み。
射精し切れず、しかし存分に濡れた其処。更に奥まった箇所まで垂れた唾液が唯一の窪みを湿らせているのが見える。
捩じ込みたいと、素直に思った。
「フエ…っ」
戸惑う指先が胸元を掴んだ。思いやる余裕など此方にももうない筈なのに、其の手を取って握ってやる自分が居る。
安心したかのように、琥珀色が和らぐ。握り返す指先は熱い。
「ああ、」
解ってる、と口に残し、感触で伝えるべく唇を奪った。
余った手指で、受け入れられる箇所を緩く探る。誰も触れた事の無い秘めた莟に、指の先を含ませる。
ひくりと震える肩を食んだ。ひとつひとつの反応が堪らない。
―――そう、恐らく此れが、
「こっちも、限界みてェだ」
此れが、愛おしいという感情なのだろう。