【悪友バンドパラレル】early morning subway.

俺様CDでフビメタルデスメタル系のお歌を熱唱あそばせてる普を聞いてから「ああ、バンドモノっていいよなあ…」みたいな妄想が掻き立てられた産物です。
きっと俺様CDはこんな面子だったろうという夢見がちなメモです。ちなみに音楽の知識は全くありません音符すら読めません。


「あー喉痛ぇ」
  人気の無いサブウェイのホームで電車を待ちながら、ギルベルトは喉を押さえて呻いていた。
  季節は夏。早朝だというのに、むわっとした空気が満ち満ちている。夜毎騒いできた地下室の箱よりは酸素が通るが、吸い込むのが熱気ではなく、ぬるく湿ったそれというのは気分が良くない。加えて、一晩中叫び続けた喉がもう絡むというより痺れて喋るだけでびりびりするのだ。そんな場所に濁った空気を通しても、悪化するだけな気がする。
  せめて煙草があれば、この苛立ちを少しは軽減させられるものを。
  空箱に変えてしまったダビドフ・クラッシックがいとおしい。尻ポケットを探っても、あるのはライターだけだ。
「何、ギル喉痛いん?」
  帰り道が途中まで同じ方向であるアントーニョが、覗き込むようにしてギルベルトの表情をうかがった。
「自分、叫んでなんぼやからなー」
「ヤニ切れなきゃ喉は通んだよ。あーくそ、吸いてえ」
「どっかで買うてくればええやん」
「ダビドフはこの辺で売ってねえ」
  苛々とポケットや喉やらを探るギルベルトを、そんなもんかいな、とアントーニョは眺めた。
  煙草みたいなものを吸ったら余計に悪化しそうなものだけれど、メンソールならすうっとしていいのかもしれない。しかしギルベルトはメンソールシガーを邪道だとか言って、祖国産のダビドフ・クラッシックを愛用していると聞いたことがある。多分いま苛々しているのは喉の痛みではなく、単純なニコチン中毒なのだろう。
  しばし思案した後、アントーニョは薄っぺらい鞄の中をごそごそと探って、見つけたそれをギルベルトに差し出した。
「やるわ。喉痛いならこっちのがええやろ」
  それは小さな飴玉だった。掌にちょこんと乗ったそれを、ギルベルトは見下ろす。
  飴玉ごときでこの苛立ちがどうにかなるかよ、と思うが、口寂しいのは事実である。舐めていればフラットに到着するまでの時間稼ぎにはなるかもしれない。そう思い、ギルベルトは友人の好意を受け取ることにした。つまんで、口の中に放り込みながら、
「なあ、これ何味だ?」
「味ってか、プチトマトや」
「ぶへっ!!」
  ぽん!と勢い良く、飴玉改めプチトマトが線路の向こう側へ空気鉄砲のように押し出されて闇に消えた。
「てめ、何食わしてくれてんだ!!飴だろふつうこういう時は!!」
「飴ちゃんとは誰も言うてへんもん!見たらわかるやろ!」
「わかんねえよ!つか鞄からプチトマトが出てくる理由もわかんねえよ!!」
「常備しとかんととっさの時に困るやろ!」
「どんな状況でプチトマトが必要になるんだよ!!…っげ、いてててて」
  ともすれば掴みあいになりそうな中、ギルベルトはむせだした。
  喉が真っ赤に腫れているというのに怒鳴り散らしたからだ。ひゅう、と木枯らしのような音が鳴って、げほげほと咳き込む。喉を押さえて呻く友人を、アントーニョはおろおろと見下ろした。
「どないしよ、飲むもんか?いるか?」
「ん、なんか買ってこい…!」
  まるで喘息の発作のように苦しがりながら、ギルベルトが言う。アントーニョはわかった!と応えて、先ほど下りてきた階段を全速力で駆け上っていった。
  なんだかんだ言っても友人である。生理的な涙が滲む目でその後姿を見送りながら、ギルベルトは幾度も咳払いをしてごまかした。音を立てる度に痛むが、そうしていないともっと痛い。違和感が気持ち悪い。
  たまにひどい目にあわされるが(例:プチトマト)、アントーニョは面倒見がいい。この場にはいないがフランシスだって、からかいながらも何かあれば手を貸してくれる。友人と呼べる間柄の人間が殆どいないギルベルトにとって、腐れ縁で繋がる二人はとても貴重な存在なのだ。
  戻ってきたら、礼のひとつくらい言ってもいいかもしれない。
  そんなことを痛む喉を押さえて考えていると、アントーニョが変わらぬ全力疾走で階段を駆け下りてきた。
「ギルー!買ってきたでー!!」
  受け取れやー!と、その勢いのまま、アントーニョの手から缶が投げられる。
  喉を潤す冷たい水分の到着に、ギルベルトは顔を輝かせてそれを受け取った。
  ああ、やっぱりダチっていい。悪くない。そんな風に思いながら、缶を見る。
  冷えた缶には、真っ赤に熟れたトマトと「100%」の文字が載ったイラストが、でかでかと印刷されていた。