【独普】Hallo! Mein bruder. 重たい左肩

 独×普人名パラレル・兄弟設定


左の肩口ばかりがいつも濡れる。

 涙もろい性分を隠していても、頻繁に食卓を共にしていれば、どうしても時折垣間見えてしまうものがある。
 兄として強くあれ、という信条でもって背筋を伸ばし続けた反動なのか、それとも昔から押し殺していたのか、聞くに聞けないがギルベルトは(少なくとも自分よりは)よく泣く。
 一人が楽しいという虚勢を張る時の、目元にきらりと光るそれとはまた別に。
 先日は、レンタルしてきたDVDを観て泣いていた。
 その前は、テレビで感動的な動物物語を観て泣いていた。
 その更に前には、大変素晴らしい恋愛小説を貸したがこれはくしゃみと同時に飽きられた。活字は苦手らしい。
 粗野で乱暴、というイメージばかりが先行しがちだが、ギルベルトは人と人の、或いは心を通わせた何物かとの絆には滅法弱い。
 ただし絶対に、他人に涙を見せたくないようだ――たとえそれが弟相手だったとしても。
 例を挙げよう。
 先のDVD鑑賞の際には俺自身も同席していたのだが、ラストシーンのもっとも盛り上がる部分の手前で、ギルベルトは急に、並んで座っていたソファから立ち上がり、おもむろに、俺の膝に跨って来た。
 画面が見えないんだが、と文句を言うと、うるせえ黙れ、と返事にならない返事が返される。見上げればギルベルトの顔はもう決壊寸前となっており、口元はわななき鼻はひくひくと震え、あと三秒見詰め合っていたら、決定的な瞬間が見られただろうと思うほどに。
 だがその三秒の前に、俺より背の低い兄は俺の左肩に思い切り顔を押し付けてしまった。
 そうされることで、ようやっと銀髪の頭越しに画面が見える。盛り上がりは最高潮に達し、不覚にも、自分自身も鼻の奥がつんとなる。ギルベルトはというと、肝心の名場面に背中を向けているというのに、肩口に顔をこすり付けて、小さな嗚咽を漏らして泣いていた。
 涙を見せたくないのだろう。それは解る。
 しかし、ハンカチ代わりに弟の肩口を常時使用するという選択はいかがなものか。
 以前その疑問を問いただして見たことがあった。俺のセーターが再起不能に陥ったこともまた、原因のひとつとして。
 彼は(その時は特に涙腺を刺激するような番組を観ている訳ではなかったので、いつもどおりの不遜な兄だった)質問に眉根を寄せ、それじゃあ意味ねえじゃねえか、と答えた。
「ハンカチで拭いたら、泣いてる面を見られるだろ。その点、お前のばかみたいにでかくて広い肩を使えばお前に俺の顔は見られないし、たとえお前以外のやつが同席していたとしても、俺の顔は誰にも見られない。完璧だろう」
 何とも徹底したやり方だ。それほどまでに、泣き顔を見られたくないらしい。
 涙は弱さの象徴だと、ギルベルトは言う。そんなものを他人に見せたくないという。
 馬鹿高いプライドを守るためにそれは必要だったのだろうけれど、俺の肩にしがみついて嗚咽を漏らす兄は、正直、いとおしくて困る。