【悪友バンドパラレル】onry master.

俺様CDでフビメタルデスメタル系のお歌を熱唱あそばせてる普を聞いてから「ああ、バンドモノっていいよなあ…」みたいな妄想が掻き立てられた産物です。
きっと俺様CDはこんな面子だったろうという夢見がちなメモです。ちなみに音楽の知識は全くありません音符すら読めません。


「フランシスがな、アーサーうちに入れたい言うてんねん」
  控え室で帰り支度をしながら、まるで世間話ようにアントーニョがそう言った。
  いつもどおり、汗だくになったTシャツを脱ぎ捨てて絞っていたギルベルトが振り返る。スプリングがばかになったソファに腰掛け、緑の瞳はブーツのストリングを編みかえることに真剣だ。ギルベルトが顔を上げなければ独り言に扱われてもおかしくないほどの、それは適当な口調だった。
「あ? うちって、メンバーにしてえってことか?」
  ギルベルトが、布が千切れるのではないかという力で万力絞りをしながら応える。
「そやねん。この前のゲストで良い感じ出してたやん?せやから、一緒にって」
「ふん。そんで今日はさっさと帰っちまったのか」
「何や、もっと怒るかと思っとった」
「なんで俺が怒んなきゃなんねえんだよ」
「俺様に断りもなく勝手なことしやがって!とか、言うと思てん」
「必要ねえな。どうせうまくいきっこねえし」
  そう言って、シャツをぱん、と音を立てて開く。なして?とアントーニョ。
「アーサーがOKするはずねえってことだ」
「解らんでー?あいつ実はさみしんぼーやんか。ギルとおんなじで」
「俺は違ぇ!一人が楽しいんだつってんだろ!」
「強がりはええねんて。そないなことよりなんで?随分自信たっぷりやんか自分」
  靴紐から会話に気分を切り替えて、アントーニョはようやっとギルベルトに向き直った。左右ちぐはぐの長さで、しかも編み方の違うストリングは故意にやっているのか間違ったのかは解らない。ただ手先は器用なので、それなりに見えてしまうのが得だ。
  そのブーツの踵でとんとん、と床にリズムを作りながら、アントーニョが首をかしげる。
「寂しがりだとかそういうのは似てねえけどな、あいつと俺はこの意見についてはぴったり合致すると思ってるぜ」
「どゆこと?」
  ぱちぱち。二回瞬き。そうしているとまるで少年のようだ。それこそ、彼の溺愛する兄弟たちのような、いや、それ以下の無垢な眼に見える。見えるだけだが。
  見上げてくる緑の瞳は疑問をたたえている。紫の瞳が小ばかにしたような色でもって笑い、そして、ギルベルトは唇を開いた。

「だから、坊ちゃんも一緒にどう?って思ってさ」
「却下」
  一秒の逡巡の隙間さえ無い。アーサーはバーのカウンターにグラスを置く音と同じくらい短い言葉で、フランシスの誘いを一刀両断した。
  がっくり。と肩を落とすと思いきや、フランシスは苦笑して、やっぱりねー、と呟いた。
「まあ、嫌だって言われると思いましたよ、おにーさんは」
「わかってんなら聞くんじゃねえよ。大体、俺は酒を奢られに来たんだ。引き抜きの誘いを受けるためじゃねえ」
  そう言って、アーサーはバーテンにもう一杯、同じものを注文する。さっきから全くピッチを下げずに飲み干しては次を追加していく様子から、本気で奢られるつもりで飲んでいるらしい。もう少し酔っ払ってからなら案外、OKをいただけたかもしれないとフランシスは思った。まあそんな方法で仲間になったところで、うまくいくわけもないのだけれど。
「でもさ、一応理由くらい聞かせてよ」
  じゃないと何だか寂しいじゃない、と、フランシスはいつものぬるい笑みを浮かべて問いかけた。
  アーサーはその顔を、暗がりの中では昼間よりもより輝くエメラルド色の瞳でもって眺めている。
「つるむのは好きじゃない。一人の方が楽だし、やりたいようにできる。お前んとこにはバカしかしないし」
「まあギルは確かにおばかさんだけどねー。俺はちゃんと考えてますよ?」
  アーサーが俺の音で歌ってくれたらいいなあって。
  続けて囁いて、からん。氷のぶつかる音を立てて、フランシスのグラスが持ち上がる。揺れる琥珀色の液体。
  女性ならばとろけてしまいそうな甘い声と瞳で攻めて見ても、アーサーには通用しないとフランシスは理解している。熱視線もそよ風がごとく受け流した女王様は、ふい、と難なく視線をそらした。
「お前んとこのバカボーカルだって、俺と組むのは嫌がると思うぞ」
「え? この前すっごく楽しそうだったけど?」
「あれは一時だからいいんだよ」
「…お兄さんよくわかんないわー」
「ヒゲ面の男に理解されたくもねえ」
「ひどい!ヒゲ差別!?」
  両手で頬を押さえて大げさに嘆くフランシスを、アーサーがぎろり、睨む。
  そして彼は、面倒臭そうに溜息を吐いた後に、酒で濡れたつややかな唇を皮肉げに歪めた後にゆっくりと言葉を吐いた。

『ステージの主役は、一人だけで十分なんだよ』