【独普】Hallo! Mein bruder. 晴れた日にはビーズを飾って

独×普人名パラレル・兄弟設定


 まあ、何だ。
 そうしたいと思ってしまったのだ。

 日当たりの良いリビング。
 庭に面した正面に、ギルベルトはわざわざソファを引き摺って移動させ、そこに寝転がっていた。ローテーブルも引っ張ってきてミネラルウォーターの瓶を置き、毎号欠かさず購入してくる専門誌(主に女性の肉体についてさまざまな角度から研究を重ねている写真ばかりのもの)を開いたまま腹に乗せ、口には煙草、傍らに灰皿。
 ちなみにここは俺の家であり、ソファもテーブルも俺が購入したものだ。銀色のアッシュトレイだけは彼が持参した。
「…ギル、やりすぎだとは思わないか?」
「あん?」
「フローリングが傷だらけだ」
「お前が『煙草吸うなら庭近くでしろ』って言ったんだろ」
 そう言って、ギルベルトは振り向きもしない。
 確かに俺は先程、きちんと片付け拭き掃除までした部屋を汚されるのが嫌で、煙草を吸う時は外気に近いところで吸うようにと伝えた。何かを読みながら煙草を咥えるギルベルトは、大抵灰を皿以外の場所に落とす。テーブルに、ソファに、床に。酷い時は雑誌を読みながら大声で笑い出し、灰のみならず唇に挟まっていた煙草ごと落として、絨毯に穴を開けたこともある。つまり前科持ちだ。
 故に、トラブルを回避する為の提案だったのだが、よもやこのようなことになろうと思わなかった。
 明日はワックスがけをし直さなければなるまい。透明な傷跡を見下ろし、俺はため息をついた。
 そうして、昼間の陽光をたっぷりと浴びて気持ちのよさそうなギルベルトを、正反対に曇った目で見やる。
 入り込む南風が、ギルベルトの短い前髪を揺らしていた。気持ちよさそうに目を伏せているのが見える。そうして下りた瞼の、細く細かな睫が白い頬に影を落としていた。
(ああ、)
 きれいだ、と思った。
 何の下心もなく、そう、それは美術品を評価するときと同じ感覚だ。
 長い睫は髪と同じ銀色。今は光を強く浴びて真っ白に見える。瞬くとぱさぱさと小さく揺れ、すぐ下の瞳――夕闇のPurpurの瞳がまるで鉱石のようだ。色が白いせいであまり目立たないが、こうして光を当てると、長い睫は本人の性格とは正反対に繊細だと知った。
 足が進む。勝手に、と言っていい。
 背もたれに横腹をつけ、肘掛を枕にしているギルベルトは、油断しきってこちらに気づいていない。
 手が背もたれを掴む。ようやくこちらに気づく。
 自分の影が彼の顔に重なるのを見ていた。どうした、の、ど、の形に開いた唇が近い。
 その唇にではなく、賛美すべき美しき箇所に、敬愛の口付けを。

 まあ、何だ。
 そうしたいと思ってしまったのだ。